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子ども移住者のホンネ。
両親に連れられ
家族で飛騨に移り住んだ、
ある兄弟へのインタビュー

あなたはなぜ飛騨を好きになったのですか?
vol.011

posted:2017.3.27   from:岐阜県飛騨市  genre:暮らしと移住

sponsored by 飛騨地域創生連携協議会

〈 この連載・企画は… 〉  最近、飛騨がちょっとおもしろいという話をよく聞く。
株式会社〈飛騨の森でクマは踊る〉(ヒダクマ)が〈FabCafe Hida〉をオープンし、
〈SATOYAMA EXPERIENCE〉を目指し、外国人旅行者が高山本線に乗る。
森と古いまち並みと自然と豊かな食文化が残るまちに、
暮らしや仕事のクリエイティビティが生まれ、旅する人、暮らし始める人を惹きつける。
「あなたはなぜ飛騨を好きになったのですか?」

writer profile

So Morimoto

森本創

もりもと・そう●1981年生。木こり。15歳で初渡印、マザーテレサに会う。アジア学生で初の国連ボランティア。旭硝(株)では、建築用ガラスの営業で全国一の担当売上高。30歳を機に家族で3か月×7か国の旅に。飛騨在住。

昨年の秋から約半年間、飛騨地域で〈未来の地域編集部 準備室〉が立ち上がった。
これからは地域自らが発信すべく編集部の立ち上げを目指し、
コロカル編集部がお手伝い。

その一環として「編集・ライターワークショップ」が開催された。
そのなかで参加者が実際に取材して書き上げた記事を公開する。
地域に暮らしているからこそ書ける取材内容は、
地域発信における「未来の姿」だといえる。

子どもにとって、移住とは?

のんびりとした暮らしや子育て環境に憧れて、
田舎への移住が気になる方も多いのではないでしょうか。
移住先での暮らしについて、よくある大人の感想はさておいて、
あまり表に出てこない、子どもの目からの体験談を聞いてみました。

インタビューの相手は、飛騨古川に住む
森本時蔵(ときぞう)くん(9歳・小学3年生)と
多良(たら)くん(8歳・小学2年生)の兄弟。
そしてお母さんのおりえさんです。

飛騨生活は4年目。
兵庫県西宮市からそれぞれが6歳と5歳のときに引っ越してきて、
近所の保育園に編入しました。現在は、小学校に通っています。

ーーどうして飛騨に引っ越して来たの?

時蔵(以下「兄」): 知らない。とーちゃんとちゃーちゃんが行くって言うから。

多良(以下「弟」): 気がついたら飛騨にいた。

おりえ(以下「母」): 我が家も例に漏れず、飛騨の豊かな自然と文化に惹かれて
移り住んで来ました。ただそれまで、主人以外は誰も飛騨に来たことがなく、
私自身も知らない国を旅するような新鮮な気持ちでした。
長男の小学校入学に間に合わせるタイミングを選びました。

ーー冬は雪が積もるけど大丈夫?

兄: 毎朝、雪かきしてから学校に行く。タラは寝ぼすけでやらないけど。
屋根に雪が積もりすぎると、家がゆがんで戸が開かなくなる。

弟: 学校にもスキーウェア着てブーツ履いて行く。
校庭には除雪した雪で大きな滑り台ができるし、
体育の授業は近所のスキー場に行くよ。

母: 移住初日には、子どもたちは雪でカマクラをつくったり大はしゃぎでしたが、
数日すると道の雪かきや屋根の雪下ろしなどの大変さがわかり、喜ばなくなりました。
「雪またじ」は人手がかかるので、ふたりはすでに我が家の大事な戦力です。

雪またじとは雪かきのこと。飛騨方言で片づけの事をまたじ、
あと片づけをあとまたじ、 雪かきを雪またじ、といいます。

転入届けを出しに行った2013年1月。その月は森本家の分だけ人口減少が緩やかになったはず。

ーーふたりが通う小学校のことを教えて。

弟: 家から歩いて5分。1クラス25人で、2年生は3クラス。

兄: 3年生も同じ。遠い子はバスで通ってる。飛騨市で一番大きな小学校やで。

母: 偏見ですが、もっと生徒数の少ない木造校舎の学校に
通わせるのではないかと思っていたので、
都会と変わらないサイズで少々拍子抜けしました。
ただやはり、同じ飛騨市でも、山之村の小学校では全校生徒が6人です。

ふたりが通う小学校。約10年前に改築された近代的な建物。

ーー遠足や社会見学はどこに行った?

兄: 黒内果樹園や安国寺とか。
果樹園で教えてもらったからリンゴの種類に詳しくなったよ。

弟: 高山バスセンターとかスーパー駿河屋とか。
同じクラスの友だちのお父さんが働いてた。

母: 時蔵が行った安国寺の経蔵は国宝、隣町の高山は人気の観光地ですし、
すばらしい目的地が近所にたくさんあって飛騨は文化的教育も恵まれています。

毎年9月下旬の運動会。稲刈りと重ならないように、また冬が早いので運動会も少し早め。

ーーほかに都会の学校と違うことある?

弟: 〈古川祭〉の日は、学校が休みになるで。

兄: 運動会のとき、椅子はお酒のケースやし、
天神様(応援歌)は友だちのじいちゃんのときから歌ってるって言ってた。

母: 4月19、20日の古川祭では、子どもたちも囃子や歌舞伎などで活躍、
1か月ほど前から毎晩、公民館に集まって練習します。
大人や中高生に混ざって励み楽しむ様は、
学校とはまた別の世界で、子どもたちを大きくしてくれます。

初めての飛騨での冬に時蔵がつくったカルタ。よっぽど寒かったんだね。

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友だちと何して遊ぶ?

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ーー普段は友だちと何して遊んでる?

弟: 瀬戸川でコイに餌あげたり。

兄: (習いごとの)剣道がない日は、17時まで学校の友だちと遊んで、
帰宅してから近所の子と家の前の道で鬼ゴッコとかドッチボールとか
ブレボー(ブレイブボード)とか。

母: やはり飛騨の子どももテレビゲームで遊ぶのが大好きです。
せっかくすばらしい環境があるのだから、と考えるのは大人の身勝手なのでしょう。
それでも、都会に比べれば学習塾に通う子は少ないようで、
家の前の道で近所の子どもたちが暗くなるまで賑やかに遊んでいる様子は、
ほほえましい限りです。

家の前の道は、近所の子どもたちでいつも賑やか。地元の人はそれを知ってるので車の運転を避け、ほとんど歩行者天国。

ーー学校などで、自分が移住してきた人だと感じることはある? 
話す言葉が違ったり、とか。

弟: えーっと……、別にない。

兄: もう飛騨弁やし、先生や友だちも
(時蔵が外から来たことを)知らないんじゃない?

母: 何かあるのかなと思っていたので、この回答は意外でした。
もしかしたら隠しているだけかもしれませんが。
幼稚園から編入できたのが良かったのかもしれません。
子どもたちのほうが私や主人よりも飛騨弁が上手です。

ーー以前に住んでいた兵庫に戻りたいと思うことはある?

兄: ないなぁ。飛騨には雪があってスキーができるけど、兵庫は信号だらけだから。

弟: うーん、じいじとばあばに遠くて会えないのは嫌だ。
でも、とーちゃんが仕事から早く帰ってきて毎晩お相撲できるからうれしい。

母: 夏休みにはふたりだけでバスに乗って関西の祖父母宅に遊びに行きました。
子どもたちが新しい土地を気に入り、日々“飛騨人”らしく育っていくのはうれしいです。
私も主人も「関西に帰る」ではなく「関西に行く」と言うように心がけています。

妹が毎日遊びに行く近所の家で、一緒にご馳走になるふたり。

ーー休みの日にはどうやって過ごすの?

兄: 冬はかんじき履いて雪山に登ったりスキー行ったり。

弟: 鹿とか猪とか、裏の玄関に吊るしてあって食べる。
あと、夏は川に泳ぎに行ってBBQしたりキャンプしたり。

兄: とーちゃんたちの友だちが家に泊まりに来ることも多いしな。
今年は山を買ってそこに家建てるんだー。
とーちゃんが木を伐って、トキたちも手伝う。
サンタさんにインパクトドライバーもらったし。多良はサンダーをもらったよね。

母: 飛騨に来て、主人が木こりの仕事を始め猟師の免許も取ったこともあり、
我が家のアウトドアレベルが上がった気がします。
ないものねだりで、たまには都会に出て映画を見たり買い物をしたりもしますが、
すぐに疲れて飛騨の暮らしが恋しくなります。

お気に入りの川。シュノーケルをつけて潜る。

小さな移住者たちのインタビューはいかがでしたでしょうか。
ふたりはすっかり飛騨人として溶け込んでいる様子で、
馴染みのない単語もポンポン飛び出しました。
ご両親はもちろん、地域の人に守られて、
自然と文化が豊かな土地で育つ姿は、羨ましくもありました。

中央が多良くん、右が時蔵くん。飛騨に来て妹がふたり生まれ、現在は6人家族。

家族での移住は、学校の編入など苦労が多いことも事実ですが、
一方で子どもがいることにより地域に馴染みやすいという側面もあるようです。
そして、見知らぬ土地への移住は家族としての団結力が求められ、
また祭りや子ども会などでは社会的な役割が与えられ、
子どもたちが家庭でも地域でも大切な構成員とみなされることは、
背筋の伸びた子どもを育てることになるのでしょう。

■ワークショップ参加者が取材して書いた記事はこちらにも↓

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