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キャンピングカーでラクラク!
長崎・移住先探しの旅 その4:
波佐見で感じた“もの力”と“ひと力”
陶芸家 長瀬 渉さん

ローカルの暮らしと移住
vol.012

posted:2016.3.26   from:長崎県東彼杵郡波佐見町  genre:暮らしと移住 / 旅行

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〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

photo&text

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。『コロカル』では「美味しいアルバム」を連載中。
https://colocal.jp/category/topics/food-japan/tasty/

credit

supported by 長崎県

家族との移住を本気で考えて、日本全国あちこちを旅するフォトグラファーのテツカ。
そんなテツカがキャンピングカーで平戸市・波佐見町・雲仙市を4歳の娘と巡ってきました。
長崎って移住先としてどうだろう? という彼女なりの目線をお楽しみください。

【その1:キャンピングカーを借りてみる】はこちら

【その2:平戸市のレムコーさんに聞く人づき合いのヒント】はこちら

【その3:移住者は“タンポポ”!? 波佐見町・岡田浩典さんの移住体験話を聞く】はこちら

【その4:波佐見で感じた“もの力”と“ひと力” 陶芸家 長瀬 渉さん】

【その5:奥津家の3拠点生活】はこちら

前回に引きつづき、波佐見町よりお届けします。
「あ! これがあのキャンピングカーですか!」などと声をかけられながら、
車はさらに走り続けます。
細いあぜ道もなんのその。さらに奥へ奥へと進みます。
今回訪ねたのは、山形県から移住した陶芸家の長瀬 渉さん。
そして、とっておきのたまごを販売している〈峠自然塾〉です。

ここでまず、波佐見について【Q&A】
波佐見町役場の朝長哲也さんに質問です!

Q 波佐見の人って、どんな人柄ですか?

A 面倒見がよくて世話焼き! そしてノリがいいです。

Q 賃貸で家を借りる場合、相場はどれくらいですか?

A 家族向けであれば5万円前後、ひとり暮らしであれば3万円前後です。
仕事場としては、〈空き工房バンク〉に登録されている物件があるので、
低価格で借りることもできます。
http://hasami-akikobo.com/

Q 病院はありますか?

A 波佐見町にも14か所の病院がありますし、車で15分の佐賀県の嬉野市には、
救急総合病院もあります。

Q 長崎で唯一海がない市町村ですが、おいしいお魚は食べられますか?

A 大丈夫です!
海に面してはいませんが、近場の海まで車で20分ほどですし、
〈シルクロード〉という居酒屋でもおいしい魚が食べられます。
ご主人が毎日仕入れにいっているので、とびきり新鮮です!

Q 波佐見のオススメポイントは?

A 結(ゆい)の文化です。
波佐見の人たちは、常日頃から互いを支え合って暮らしています。
「隣保班(りんぽはん)」という波佐見らしい制度もあるのですが、
これは、自治会に加入したご近所同士でグループをつくり、
冠婚葬祭のときなどに助け合うものです。
都会にはない安心感が、この波佐見にはあると思います。

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ぶりんぶりんのたまごに感激!

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「移住先探しメニュー」のなかに、「スーパーや市場などの見学」という項目がある。
それを体験するため、たまごを販売している〈峠自然塾〉を訪ねることにした。
たまご好きの私にとって、生みたてのたまごが毎日手に入る環境は魅力的だ。

国道から曲がり、細いあぜ道を入っていく。
すると、奥のほうに鶏の群れが見えてきた。
柵に近づいてみると、遠くにいた鶏たちがいっせいにこちらに集まってくる。
な、なんだこの光景は……、鶏って人懐っこいのか?

鶏にえさをあげたいという娘を、抱きかかえてくれる朝長さん。ゲラゲラ笑う娘。

この峠自然塾では、〈アルギニン元気たまご〉という名前でたまごの販売をしている。
無農薬の発酵飼料を与えながら、自然のなかで野放して育てているのだ。
塾長の浅田良雄さん、英子さんご夫婦にお話をうかがった。
「もともとはアスパラの栽培農家をしていて、
ハウスの中で農薬を使っていたんですよね。
それを続けていたら、妻が体調を崩したんです」
以来、農薬の使用を一切やめて、安全な野菜とたまごをつくり始めたのだそう。
「このたまご、アルギニンが普通のたまごの6倍もあるんですよ。
毎日食べてたら、ほんと病気知らずですよ」
と、ツヤツヤ肌のご主人が言うのだから、説得力がある。
鶏が飼育されている場所のすぐ隣には、
販売所とごはん処〈りょうらん亭〉が併設されている。
りょうらん亭では、1日30食限定でたまごかけごはんをいただくことができる。
私もひとつお願いしてみた。

たまごスープと、自家製のお漬け物がついて390円

朝長さんに「混ぜてもらえますか?」とお願いして撮影したショット。黄身の濃厚さが伝わるだろうか。

運ばれてきたのはいかにも弾力のあるブリンとした生たまご。
ごはんの上にのせてかき混ぜ、醤油を数滴たらして食べてみると、
濃厚な黄身の味わいと白身の粘りの強さ、
いつも食べているたまごとはまったく別物だ。

たしかに、これを毎日食べたら元気いっぱいになるだろう、という強さを感じる。
東京で待っている夫にも食べさせたいと、購入させてもらうことに。
せっかくならば生みたてをどうぞ、ということで
英子さんの後について小屋へとおじゃました。

「あ、ほら、この子いま生むところだよ」
見ると、じーーーーっとしながらまさにその時を迎えている鶏。
英子さんが鶏に声をかけながら、そっとかごに入れていく。
「ありがとうね〜、いただくね〜」

たまごを食べるってそういうことなのか。
触ってみる? と渡されたたまごはまだ温かくて、
手のひらから命がはっきりと伝わってくる。
こういう経験が身近にできる暮らしは、
きっと大事なことに気づかせてくれるのだろう。

ツヤツヤお肌の、浅田さんご夫妻。

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いろいろ移住相談。〈ながせ陶房〉におじゃまします!

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最後に向かったのは、波佐見のなかでも窯元が多く残っている中尾山。
そこに一昨年、新たな窯がひとつ加わったという。
それが、陶芸家の長瀬 渉さんが立ち上げた〈ながせ陶房〉。
「先輩移住者への移住相談」をするため、工房兼ご自宅へとおじゃました。

山形県出身の長瀬さんが、奥様の恵子さんと波佐見にやってきたのは13年前のこと。
最初は、西の原地区の製陶所跡地に工房を構え、スタートを切った。
「人間国宝の富本憲吉が仕事をしたのが、西の原だったんです。
大学の先輩でもある彼が作陶していた場所に、
約100年後に自分が工房を開くという物語が気に入ったというのが、
波佐見に住むきっかけのひとつでした」

老朽化していた建物を自分たちで修繕して工房を立ち上げた。
その翌年、仲間たちと同じ敷地内にカフェレストラン〈モンネ・ルギ・ムック〉や
ギャラリーを併設した雑貨屋〈モンネ・ポルト〉を企画して立ち上げた。
その後、地域の方たちの協力を得ながらお店が増え、
西の原という土地に、にぎわいが戻ったのだ。

その仕掛け人でもあり、実行人でもあるのが長瀬さん。
「おいしいコーヒーとケーキが食べられたらいいな〜って思って、
おかちゃんをたらし込んだんです。
完全に私利私欲です」と笑う。
長瀬さんが口説いた“おかちゃん”というのは、
〈モンネ・ルギ・ムック〉の岡田浩典さんのこと。
(岡田さんインタビューはこちら
なかなか口説き落とせなくて、
3回目でやっと首を縦に振ってくれたのだとうれしそうに話す。
ほかにも、たらし込んだ人はいるんですか?
「いますよ。でも、その人をよく知ってからですよ、それから口説くんです」

モンネ・ルギ・ムック。常にお客さんでにぎわう、人気店。

モンネ・ポルトは幅広い雑貨を扱うお店。

10年過ごした西の原から中尾山へ工房を移したのは、2014年のこと。
「もともと、10年単位で考えていたので、少し前から物件を探し始めていたんです。
それで、ここの場所と出会いました」

大きい建物のなかには、住居と工房、そしてアトリエが併設されている。
ふしぎと、なにかに包まれているような安心感がある。
「ここはもう廃墟だったんですよ、崩れかけた建物とゴミしかないような。
それを、自分たちで基礎から全部セルフビルドで建て直したんです。
3年前に住居スペースを、2年前に工房をつくりました」

奥のスペースを拝見させていただくと、なるほど……。
いまの状態にするまでには、相当な苦労があったのだとわかった。
そうまでして自分たちの手でつくり上げたのは、
どんな気持ちからなのだろうか。
「ま、自己満足ですね」と、笑う長瀬さん。
そのあとに、こう続けてくれた。
「コミュニティーをつくるうえでも、
家づくりというのがいいきっかけになるんです。
工事中もいろんな人たちが集まって作業を手伝ってくれて、
人と人とのつながりが生まれていくんですよね。
何しろ毎日キャンプしてるみたいなもんですから」

近所の人は、“いまさらこの家をどうするんだろう”という目で見ていたという。
「でも、僕らが本気だってことに気づき始めて、
そのうちに楽しんでくれるようになりました。
物づくりのすごみが伝わったんだと思います」

お金をかけない分だけ時間がかるということを、長瀬さんは身をもって知っている。
それでも、自分たちの手で、自分たちのスタイルで表現することには意味があるという。
「やっぱり違うんですよね、“もの力”が宿るんですよ。
そういう場所には、人が集まってくるんですよね」
この家に入ったとき、包まれたように感じたあの安心感は
きっとそういうことだったのか。

長瀬さんの作品は、魚をモチーフにしたものが多い。

廃業になった洋服屋から拾ってきた部品と、捨ててあった木箱を組み合わせて道具入れに。「ホームセンターで買ってくれば済むんでしょうけど、ここにあるもんでできるので」と長瀬さん。

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さらに大きなプランが進行中!

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長瀬さんは、またひとつ大きなことを始めようとしている。
「保育園をつくろうと思うんです、この近くに」
保育園て……、つくれるんですか!?
「このあたりの地域の人たちと計画していて、もう動き出しているんですよ。
柔軟な考え方でやれるような、そんな保育園をつくりたくて」

近いうちに現実するんですね。
「はい、たぶんできると思います。
この地域に、お子さんもお孫さんもいない
ひとり暮らしのおばあちゃんたちがいるんです。
そういう人たちにも手伝ってもらえたらいいなって」
保育園をつくろうって、普通は考えつかないと思うんですが。
「うちの子どもを入れたいんです、これもまた私利私欲です」
と、また大きく笑う。
「必要なものは目の前に出てくるんで、それをやればいいわけで。
いろんなことを思いついて、それを実現させていくのは、すごく楽しいですよ。
最高の遊びです」

彼には、もの力ならぬ“ひと力”があるのだと思う。
地元の人も含め、いろんな人がいつのまにか彼に吸い寄せられ、巻き込まれ、
そして楽しんでしまう。
それはきっと、彼が誰よりもそれを楽しみ、
本気で向かい合っていることが周りに伝わるからなのだろう。
そういう姿勢が、新しい土地で暮らしていくうえでとても大事なんだと気づかされた。

翌朝、子どもを連れて鴻ノ巣公園に遊びにいくと、
軽トラにのったおばちゃんが話しかけてきた。
「どっから来たの?」
東京からきて、キャンピングカーでまわっていることなどを説明。
すると、
「今度うち泊まりおいでー。
子どもも孫ももうおらんから、いつでも来たらいいよ」と。
波佐見の人は世話好き。
おばちゃんの家がどこにあるかわからないけど、きっと会える気がした。

次回は、「キャンピングカーによるラクラク移住先探し」最終回。
ぶくぶくと沸き立つ温泉で有名な、雲仙市を訪ねます。お楽しみに!

〈雲仙市編〉へ

information

長崎県企画振興部地域づくり推進課「キャンピングカーによるラクラク移住先探し」

TEL:095-895-2241

E-mail:iju@pref.nagasaki.lg.jp

ホームページ:http://nagasaki-iju.jp/support/camper

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