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キャンピングカーでラクラク!
長崎・移住先探しの旅 その2:
平戸市のレムコーさんに聞く
人づき合いのヒント

ローカルの暮らしと移住
vol.008

posted:2016.3.14   from:長崎県平戸市  genre:暮らしと移住 / 旅行

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〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

photo&text

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。『コロカル』では「美味しいアルバム」を連載中。
https://colocal.jp/category/topics/food-japan/tasty/

credit

supported by 長崎県

家族との移住を本気で考えて、日本全国あちこちを旅するフォトグラファーのテツカ。
そんなテツカがキャンピングカーで平戸市・波佐見町・雲仙市を4歳の娘と巡ってきました。
長崎って移住先としてどうだろう? という彼女なりの目線をお楽しみください。
長崎滞在1日目。平戸市にやってきたテツカが出会ったのは、
古民家を改築してゲストハウスを開業しようとしている、フロライク・レムコーさんです。

【その1:キャンピングカーを借りてみる】はこちら

【その2:平戸市のレムコーさんに聞く人づき合いのヒント】

【その3:移住者は“タンポポ”!? 波佐見町・岡田浩典さんの移住体験話を聞く】はこちら

【その4:波佐見で感じた“もの力”と“ひと力” 陶芸家 長瀬 渉さん】はこちら

【その5:奥津家の3拠点生活】はこちら

濃厚な絶品ちゃんぽんを堪能したあとは、長崎自動車道をひとっ走り。
まずは北西に位置する平戸市を目指した。
青い海を眺めながらのドライブ、BGMは娘の鼻歌。
助手席に乗る4歳の娘は、初めて経験するキャンピングカーが気に入った様子。

今回お借りしたキャンピングカーについて、ここで少し説明を。
長崎県の移住先探しで借りることができたのは、
〈インディ727〉という軽自動車のキャンピングカー。
大型のキャンピングカーの運転となると躊躇してしまうけれど、
この軽キャンであれば普通自動車と変わりなく運転できるので安心。
入り組んだ場所や細いあぜ道でもラクラク走れるので、
気の向くままに旅することができる。
また、シートアレンジによってフルフラットになるので、車内での宿泊も可能。
ポップアップルーフを使えば大人2名と子ども2名まで寝られる。
今回は4歳の娘とふたりだったので、シート部分でゆったりと寝ることができた。

テーブルもあるので、ゆっくり食事ができます。電源やTV、小さめのシンクもあります。写真提供:長崎県

ポップアップルーフは、大人が寝られる広さです。写真提供:長崎県

娘はフラットシートで爆睡!

遠くに見える赤い橋が、東西を結ぶ平戸大橋。

1639年建造のオランダ商館倉庫を復元した資料館。写真提供:平戸市

田平天主堂。写真提供:平戸市

長崎空港から2時間弱で、平戸の玄関口である田平地区に到着した。
平戸市は長崎県の北西部に位置し、平戸島、生月島、大島、度島、高島の有人島と
九州本土北西部に位置する田平と周辺の多数の島々で構成されている。

大航海時代、世界地図にFirand(フィランド)と記され、
日本で最初の国際貿易港として栄えた歴史あるまちで、
今でも当時の面影を彷彿とさせる建物や史跡が残っている。
また、平戸を散策していると出会うのが、はっとするような美しい教会。
世界遺産の候補になっている田平天主堂をはじめ、
14のカトリック教会が今でも息づいている。
東京で生活している私にとって、
教会やコバルトブルーの海に囲まれているこの環境だけでもワクワクしてしまう。
もしここで生活したら、朝は教会へ行き、昼は釣りをしながら子どもと戯れ、
そして釣った魚を家族みんなで食べる……すてきすぎるじゃないか。
そんな妄想を抱きながら、まずは市役所を訪ねた。

今回の、長崎県による〈キャンピングカーでラクラク移住先探し〉では、
移住先探しメニュー」を選択することができる。
私が選択したメニューは、「市町担当者への移住相談」と
「先輩移住者への移住相談」。
そして「空き家の見学」「市場などの見学」の4つの項目。

まずは「市町担当者への移住相談」をするため、
市役所の「ワンストップ窓口」を訪ねた。
「ワンストップ窓口」というのは、移住希望者の相談のための専用窓口で、
平戸市のほか県内の21市町すべてに設けられている。
今回、私の移住相談を担当してくださったのは、地域協働課の内野愛子さん。
平戸市の概要や移住支援制度について説明をしていただいた。
そんな内野さんに、私も質問をぶつけてみた。

Q 保育園はすぐに入れますか? 待機児童はいますか?

A 待機児童はいないですよ。
市内には認可の保育所が18か所、認可外が5か所あります。
すぐに入れる状況です。

Q 小学校から高校まで、公立の学校はあるのでしょうか?

A ありますよ。
小学校が17校、中学校が9校あります。
高校は3校あって、うち1校は農業高校です。

Q 食べ物はなにがおいしいですか?

A うーん、どれっていうのが難しいですね。
海の幸はなんでもおいしいし、
平戸牛も平戸米も、野菜もとにかく新鮮でおいしいくて……絞れないですね。
珍しいものでいうと、「ウチワエビ」というのがあります。
半分に切ってお味噌汁に入れたら絶品ですよ、伊勢エビみたいな味わいです。

Q そのほか、平戸のイチオシ! を教えてください

A 平戸の本土からフェリーで30分から40分くらい行ったところに、
大島村という離島があります。
大島村は杉の木が少ないので、花粉症の症状が解消されるんです。
花粉症のひどい方には移住先としておすすめです!

そのあと、私たちへのヒアリング。こちらの現状をお伝えした。
家族3人暮らしであることや、現在の仕事の状況、希望の生活スタイル。
それらに沿った内容で、内野さんが平戸市を案内してくださった。

最初に向かったのは市場。
移住するうえでとにかく気になるのは、家族の体を支える食の環境。
平戸の地形を見る限り、魚天国であることはまず間違いなさそうだ。
肉より魚好きな我が家、期待が高まる。
内野さんが案内してくれたのは〈平戸瀬戸市場〉。
どーんと構えた大きい建物の中へ入ると、奥のほうに「魚」という文字が。
娘の手を引きながら魚売り場へ直行すると、氷の上にはピカピカの魚がずらり。
尾頭付きの鯛、大粒のサザエ、ぶりんとしたヒラマサの刺身。
しかもすべてが近海でとれた天然もの。

サザエは5個で860円! 黒アワビは980円!

平戸産天然のマダイ、1750円!

テツカ「内野さん、天然ものばっかりー! しかも安い!」
興奮気味な私に対して、内野さんは首をかしげる。
内野「普通、天然じゃないんですか?」
平戸生まれ平戸育ちの内野さんにとっては、天然ものが当たり前。
なんとうらやましい環境。
内野「テツカさん、すごいテンション上がってますね」
と微笑まれ、少し正気に戻った。
今後の予定を考えると、生ものは買えない……。
テツカ「内野さん、今度来たらバーベキューしたいです。魚いっぱい買って」
内野さんがやさしく頷いてくれた。
日持ちのする干しトビウオなどをたくさん買い込み、市場をあとにする。

乾物も充実しています。

平戸はかまぼこの名産地。いろんな種類があり、どれを買おうか迷います。

生け簀の中をのぞかせようと、娘を抱きかかえてくれる内野さん。

移住相談窓口のご担当、おっとりとした口調ながらも頼もしい内野愛子さん。こういう方の存在は、移住するうえでとても心強いと感じました。

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次は空き家を見に行きます!

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次は、市場から5分ほど走った場所で「空き家の見学」。
今回見学したのは、田平地区の低い山に囲まれた自然豊かな場所にある、
敷地面積166坪、金額800万円の物件。

このほか、平戸市の空き家バンクに登録されている物件もあるので、
平戸市のサイトを覗いてみてください。

また、移住・定住目的で転入した場合、
空き家バンクを通して購入した中古住宅取得費や改修費用、
新築の住宅取得費用や移住費用の補助を受けることもできます。

次に向かったのは、先輩移住者のお宅。
ゲストハウスの開業準備をしているオランダ人の方が
平戸に住んでいると聞いて、ぜひお会いしたいとリクエストしたのだ。
我が家も移住したのちは、ゲストハウスか民宿をやってみたいと思っている。
平戸に住む先輩移住者がどんな思いで、どんなゲストハウスをスタートするのか、
興味津々で訪ねた。

市街地から車で約5分、平戸北部に位置する田助町(たすけちょう)に着いた。
車から降りて後ろを振り向くと、
そこには古い旅館のような情緒あふれる建物が佇んでいた。
テツカ「えっ!ここですか?」
内野さんが頷く。
立派な瓦屋根は味わい深い色に変色していて、この建物がたどってきた歴史を思わせる。
2階部分の古い窓格子からは、ここで暮らしてきた人の気配と物語を感じる。
あまりにも圧倒的で優艶で、一瞬にして心を奪われた。
私たちもこんな家屋でゲストハウスができたら、想像しただけで胸が高鳴る。
ドアを開けると、先輩移住者のフロライク・レムコーさんが出迎えてくれた。

レムコーさんが初めて日本を訪れたのは高校生のとき。
1年間、沖縄に留学していたのだそう。
それ以来、日本への興味がしだいに高まり、大学で日本語と観光業を専攻した。
いつかは日本で仕事をしてみたい、そう思っていたときに、
国際交流員の募集があることを知り応募。
その後、国際交流員として市役所に勤務することとなり、2007年に平戸へ移住した。
「仕事は楽しかったんですけど、ここで何か新しいことに挑戦したいと思ったんです」
2014年、7年間勤めた市役所を退職し、ゲストハウスの立ち上げを決意した。
現在は、松浦博物館や平戸オランダ商館で仕事をしながら、
ご自身で建物の修繕をしている。
「全部を業者さんに頼むとお金がかかるので、
友人たちに手伝ってもらったりしながらコツコツと進めています。
無理矢理大きい借金背負って開業するのではなくて、
自分がやれる範囲で、まぁ、ぼちぼちと」
ぼちぼちと……、オランダ人のレムコーさん、
日本語を完璧に使いこなしているのには驚いた。
ご自宅の中を案内してもらった。

専門家に見てもらったところ、この建物は明治後期の旅館様式なのだそう。
どんな暮らしが繰り広げられていたのか、それを想像するとまた楽しい。
「この家は、翌週には取り壊される予定だったんです。
だから、すぐに決めなくてはならなくて、思い切って買いました」
平戸には、古い歴史を感じさせる家屋がたくさん残っているものの、
空き家となってしまい、日に日に老朽化が進んでいるのだという。
レムコーさんがゲストハウスを開業する理由のひとつは、そこにあった。
「家っていうのは、思い出の箱なんですよね、ただの木と土じゃなくて。
この家にも思い出やストーリーがあるんですよ。
それが壊されてしまうのは、あまりに悲しくて」
自分になにができるのか考えた末に、この物件を購入することを決めたのだそう。
「歴史のある家屋が消えていくことの歯止めになれば、すごくうれしいです」

改装中の土間部分。お客さんが朝食を食べるスペースにする予定だそう。

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レムコーさんがご近所さんとうまくつき合っていける理由

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土間から裏庭へ抜けると、目の前には海が広がっていた。
なんといいシチュエーション! ここって、魚も釣れるんですか?
「はい、釣れますよ。でも、近所の方にたくさんもらえるんで。
足りないときに釣り糸垂らします」
え、もらえるんですか? 魚。
「はい、よくもらえますよ。野菜も魚もたくさん」
我が家の憧れのひとつ、近所の人に「魚あまったから、食え〜」といただくこと。
平戸はやはりお魚天国のようで、移住地としてかなり惹かれる。
「食費はあまりかからないですよ、
お米もここに住んでから2回しか買ったことないです」
ん? なぜ。
「お米も近所の方からいただくので」。
なんて恵まれている。
「ここに住んで間もない頃、風邪をひいて仕事を休んでいたら、
近所の人が野菜とかフルーツとかいっぱい持ってきてくれて、
“早く元気になってね”って声かけてくれて。
そういうのがすごくうれしかったんです」
平戸の一番の魅力は、人の温かさだとレムコーさんは言う。
移住してすぐにこの土地に馴染めたのは、そうした温かさに触れたからなのだそう。
「おいしいものがあっても、きれいな景色があっても、
その土地の人と合わなければ暮らしていけないんですよね」

人づき合いで大変だったこととかないですか? と問いかけると、
しばらく悩んでから、
「最初は“外人ばい!”って声かけてくる人が多くて、ちょっと驚きましたけど(笑)」
たしかに、このルックスだと目立つだろうな〜。
「でも、そうやってかわいがってもらって、
だんだんと人間関係が広がっていきました」
普段心がけていることのひとつが、すぐに人を判断しないことだという。
「嫌なことがあったとしても、最初にシャットアウトしてしまうと、
その先に広がっていく人間関係も狭めてしまいますよね。
ひとりが10人に、それが100人になっていくのに」
世界各地で暮らしたことがあるレムコーさん、
人づき合いもそこから学んだようだ。

裏庭には、平戸古来のビワやつつじなどが植えられている。情緒があってとてもすてきでした。

釣り糸を垂らすのにはもってこいのシチュエーション。

2階部分も客室にする予定。窓格子が何ともすてきだ。

レムコーさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、
じっくりと話をうかがおうすると、娘が「ママ〜、あれ」という。
指を指す方向にはキウイ、ざぼん、みかんなどの果物がたくさん。
すみません、ひとついただけますか? とレムコーさんにお願いすると、
「どうぞどうぞ、これもいただきもので、たくさんあって食べきれないので」
レムコーさんはおそらく、この地域の方にとっても好かれているんだな、と感じる。
人づき合いをするうえで、どんなことに心がけているのだろう。
「自分だけ突っ走らないようにしているかな」
というのは?
「この家の修繕にしても、そればっかりを考えて突っ走ってしまうと、
周りの人たちとうまくやれないから。たとえば飲みに誘われても、
“家の修繕があるから行かない”というように、
ひとつのことだけに走ってしまうと、足下が引っかかってしまうんですよね」
自宅を案内してくれたとき、熱く語らないレムコーさんが不思議だった。
建物に対しても、ゲストハウスを開業することに対しても、
どこか冷静で、地に足が着いている。
レムコーさんの言葉を借りれば、「自分のできるスピードで、まぁぼちぼちと」なのだ。

このゲストハウスをひとつの拠点にして、
田舎のよさを発見してほしいとレムコーさんは話す。
「昔からのよい人づき合いや風習が、まだここには残っているんです。
日本の心の部分が。みんながそれに触れて、
自分の生き方や暮らし方を考えるきっかけになったらと思います」
私がそもそも移住を考えるようになったのも、
田舎で暮らす人たちに出会ったことだ。
自分が本当にしたい生き方、暮らし方を考えるきっかけとなった。
きっと、レムコーさんが始めるゲストハウスは、
いろんな人に気づきを与える場所になるのだろう。

古い物を大切に思うレムコーさん。もともとあった神棚を、そのまま大事にしている。

友人や家族を泊めるために改装した部屋。ゲストハウスの仕上がりが楽しみだ。

翌朝、寝ぼけ眼の娘を乗せ、川内峠へとキャンピングカーを走らせた。
「川内峠へ行ってそこでお弁当食べたら、ストレスなんかまったくなくなりますよ」と、レムコーさんが昨日言っていたのだ。
市役所に勤めていたころ、よく自転車で行っていたのだそう。
体を動かすことが好きなレムコーさんにとって、
自然豊かな平戸の環境はとても魅力的なのだ。
海を眺めながら走ったり泳いだりがすぐにできるライフスタイルだと、
ストレスがまったくたまらないのだそう。そんな気分を味わってみたい。
車から降りたくないとい愚図る娘におにぎりを与え、ひとりで外に出てみる。
ひんやりした横風を受けながら峠の階段を上っていくと、
辺りがしだいに開けてくる。
頂上に着いて見渡すと、そこには大パノラマが広がっていた。
青い海と周りの島々、心地よい風。
両手を広げ、深く深く深呼吸。
「どういうライフスタイルにしたいのか、それが大事ですよね」
レムコーさんの言葉が響いた。

次回は、焼き物のまち波佐見町を訪ねます。
使われなくなっていた製陶所を改装して工房を構えた長瀬 渉さんと、
同じ敷地内で〈monne legui mooks〉というカフェを開店させた岡田浩典さん。
おふたりのインタビューをお届けします。
そして、生みたてのほかほかの卵を使った、絶品卵かけごはん!
乞うご期待です。

〈波佐見町・前編〉へ

information

長崎県企画振興部地域づくり推進課「キャンピングカーによるラクラク移住先探し」

TEL:095-895-2241

E-mail:iju@pref.nagasaki.lg.jp

ホームページ:http://nagasaki-iju.jp/support/camper

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