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連載

かつお節の元祖
「潮かつお」を求めて西伊豆へ。
枝元なほみさんのつくる、
うまみのスープ

うまみのくにの、おいしいスープ
umamiのおべんきょう
プロジェクト × colocal
vol.002

posted:2017.5.31  from:静岡県賀茂郡西伊豆町  genre:食・グルメ

sponsored by やまやコミュニケーションズ

〈 この連載・企画は… 〉  「和食」が無形文化遺産に登録され、世界中から注目されるようになりました。
その理由のひとつが、だしからとるうまみです。日本には、豊かな自然と風土に育まれた
天然の素材がたくさんあります。そのうまみをじっくり感じられるのがスープ。
おいしいものには目のない料理家さんたちに、さまざまな食材をだしにしたスープを教えてもらいました。
この食材からこんなうまみが……? まだ味わったことのない“うまみ”の世界にお連れします。

umamiの
おべんきょう
プロジェクトとは?

いま「umami」という言葉は、世界中に広がっています。甘味、塩味、酸味、苦味に続く、第5の味覚。日本人が発見した「おいしく食べる」ための最大の知恵です。いま「和食」は世界中で注目されていますが、おおもとの日本ではどうでしょう。うまみを楽しんでる? 子どもたちに伝えてる? ということで、さまざまな人や企業が集まって「umamiのおべんきょうプロジェクト」が始まりました。
公式プロジェクトサイト:umamiのくにから

writer profile

Kaori Kai

甲斐かおり

かい・かおり●執筆・編集。長崎県生まれ、東京・熊本の二拠点生活にトライ中。日本各地を取材し、食文化やものづくり、地域コミュニティ、里山・郷土文化、農業をテーマに取材し、雑誌やウェブで紹介。著書に『暮らしをつくる』(技術評論社)。

photographer profile

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。コロカルで「美味しいアルバム」「暮らしを考える旅 わが家の移住について」連載中。

スープをもって、出かけよう

本格的な夏が始まる前の、爽やかな季節。
この時期にふらりと海や山へ出かけるのもいいものですよね。
アウトドアというほどでなくても、バスケットに食材をぽんぽん詰めて、
冷やしたスープを持って海へドライブ……なんてどうでしょうと
半ばこちらの願望をご相談した相手は、料理家の枝元なほみさん。

「この時期の海、気持いいですよね。
ひと晩水に浸けておくだけでいい味の出る、
外に持って行くのにぴったりのスープありますよ~」
と満面の笑みで応えてくれました。
枝元さんが取り出してきたのは、茶色の塊。これは一体……?

「“潮かつお”っていう、かつおを塩漬けにしたもの、かつお節の原型です。
トマトと一緒に水に浸しておくと、うまみがゆっくり溶け出して
おいしいスープがとれるんです」

潮かつおの産地が今も静岡県の西伊豆にあるとのことで、
工場見学を兼ねて、海辺で「海の香りのスープ」を楽しもうということに。
初夏の海を眺めながら、かつおの塩気とトマトの酸味が染み出した、
うまみのスープをいただきます。

日本各地に眠る、力のある食材

料理家として活躍する一方、日本各地の地域に眠る食材に光を当て、
食文化を見直す活動にも力を入れている枝元さん。
そのなかで料理への向き合い方も変わってきたのだそう。

「料理の仕事は、もっともっとっておいしさを足していくようなことが多いんですが、
食材だけで充分おいしい、力のある食べものがあることに気づいたんです。
今の世の中には甘い、うまい、とろける……なんて
おいしさを表現する言葉がたくさんあるけど、そんな言葉を寄せつけないような、
もっと力のある食材。潮かつおもそのひとつです。
ほんとうの意味で人を養う食っていうのかな、生きることと近い場所にあるような」

「食べものとしての風格が違う」と枝元さんの表現する食材。
頭よりも体が反応する、細胞が喜ぶような食べもの。
そのひとつに挙がったのが、潮かつおでした。

潮かつおの切り身をスライスしているところ。酢で塩抜きすれば、生ハムのようにも食べられる。

日々生産地へ出向いて、料理講習会を行ったり、レシピ開発・商品開発を行う枝元さん(中央)。カネサ鰹節商店の5代目・芹沢安久さん(左)と、従業員の鈴木敏郎さん(右)と。

今も潮かつおをつくっている地域があるので行ってみませんかと
枝元さんに誘っていただき、まさにその潮かつおでつくったスープをもって
一路向かったのは、西伊豆の田子地区。

この時期の伊豆は、山々が濃い緑と淡い緑のグラデーションに彩られ、
初夏の香りがむんむん。沼津から1時間半ほど車を走らせて船原峠を越えると、
鏡のように静かな海が広がっていました。

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「潮かつお」ってどんなもの?

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かつお節の原型、「潮かつお」ってどんなもの?

かつお節がつくられたのは、約650年前と言われます。
はじめはかつおを煮て干しただけの「煮堅魚」と呼ばれるものでした。

ところがそれよりもずっとずっと昔、1500年ほど前から、
素干しや生のまま塩漬けにして干したかつおを食べる文化があったのだそう。
これが、今も残る“潮かつお”。かつおの乾干し塩蔵品です。
潮かつおの切り身にお湯をかけるとおいしいだしが出たことから
“かつおだし”に発展したと言われる、かつお節の原型のようなものです。

潮かつおの切り身。

今も潮かつおをつくる、田子地区のカネサ鰹節商店。

“潮かつお”が食文化として残る田子

田子地区は40年ほど前まで、かつお漁が盛んで、かつお節の産地でもありました。
今も毎年潮かつおを生産しているカネサ鰹節商店のご主人、
芹沢安久さんが話を聞かせてくれました。

「今はかつおと言えば静岡の焼津が有名ですが、
昔は田子の一本釣りが盛んで漁師もたくさんいたんです。
漁師だけでなく、加工業者や、商人でずいぶん賑わっていて」

羽振りのよかった船主たちがお正月に配ったのが、潮かつおでした。

「かつおは春の黒潮にのってくる回遊魚ですが、
毎年上がってくる保証はないし、とれなければ食えないわけです。
だからまたたくさんとれますようにと、神様に祈願する捧物として、
この潮かつおを飾ったんです。縁起ものですよね」

同じ船に乗る従業員や、近所の仲間、親戚などに配り、
各家で床の間や玄関先に飾って、お正月の三が日が過ぎると、
神様からのお下がりものとして食べたのだそう。

「ほかの地域では、潮かつおを食べる文化が廃れても、
この田子では神様にまつわる神聖なものだったので、文化として残ったんですね。
今も年輩の方たちには、これがないと正月が来ないって人もいます」

芹沢さんの家でも、お正月になると丸ごと1本の潮かつおを吊るし、
三が日が過ぎると、お茶漬けにしたり、スライスしてお酒のアテにするのだとか。

潮かつおのお飾り。今も西伊豆町の田子地区では、お正月にこうして丸ごと1本吊るす。

カネサ鰹節商店では、今も昔ながらの製法でかつおの本枯節をつくっている。カビつけは樽仕込み。

昭和30年代はかつお漁の最盛期。
まちの予算が5000万円弱だった時代に、主にかつおの水揚げだけで
約5億円も稼いでいたのだとか(!)。
芹沢さんは、子どもの頃の田子地区の活気を今でもはっきり覚えています。

「かつお漁の船もかつお節屋もたくさんありました。
漁期になるとひっきりなしに水揚げの船が入って、船が入ると鳴る鐘が
ずっと鳴りっぱなしで。夜まで大量のかつおが積み上げられていましたね」

かつおを捌くのに使う道具。田子という地名は、たくさんの道具のある村「多具」からきているとも言われる。

今は近海でかつおがとれなくなり、かつお漁の船も一隻もなくなりました。
潮かつおを知る人も減る一方ですが、芹沢さんは
「何とかこの文化を残していきたい」と、「西伊豆しおかつお研究会」を立ち上げ、
西伊豆しおかつおうどんや新しい製品の開発なども行っています。

低温で乾燥させる最新式の乾燥機と違い、今では珍しくなった「手火山式」焙乾。直火の高温で節の周囲を燻し固めるため、一気にうまみを閉じ込める、おいしいかつお節をつくる製法だが、一方で、火事になる危険性も高く、職人の負担も大きい。

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放っておくだけで、じっくりうまみが出るスープ

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ふたつの食材をかけ合わせた、うまみのスープ

潮かつおについてじっくり学んだところで、さっそく海辺へ。
スープに期待が高まります。
枝元さんが用意してくれていたのは、トマトと潮かつおでとったスープ。
いただく前に、しその葉と黒こしょうを散らして、オリーブオイルをまわしかけるだけ。

季節によりその時々でおいしそうなトマトを選ぶという枝元さん。
大ぶりの、甘くて酸味もある濃い味のトマトからは、しっかりしただしがとれます。
トマトを湯むきして、潮かつおのスライスと一緒にひと晩水に浸しておくと、
放っておいても、じっくり時間をかけて、ふたつの食材をかけ合わせた
うまみが出るのです。一切煮出さず、水だしオンリー。

「スープジャーやポットに入れてくれば、しそをのせるだけなので楽ちんです」

スープを口にすると、かつおの塩気とトマトの酸味が溶け出したうまみがじんわり。
トマトを崩していただくと、トマトの甘みと酸味、
しその葉の香りが一気に押し寄せて、口いっぱいに広がります。
さっぱりしているのに、味はしっかり。ほんのり、潮かつおの海の香りがします。

「潮かつおってそのまま食べるとしょっぱいんだけど、
アンチョビみたいにも使えるんです。
刻んでチャーハンやパスタに入れてもいいし、おにぎりにもしてきました」

しょうがと潮かつおを混ぜて炊き込んだ、潮かつおのおにぎりも
ほんのりしょうが味でだしが効いていて、いくらでも食べられそう。
海辺にコンロを持ち出して、潮かつおのパスタもつくっていただきました。

潮かつおとトマトの「海の香りのスープ」

湯むきしたトマトと塩かつおを合わせて
低温で時間をかけてうまみを引き出してスープをつくります、
と言ってもほったらかしておくだけ。
トマトと潮かつお、それぞれのうまみがじっくりとしみ出して溶け合います。
さっと温めて温かいスープにしてもおいしいです。

◎材料(2人分)

潮かつお 適量(約40gくらい)

トマト 2個

黒つぶコショウ 4~5粒

青じそ 3~4枚

オリーブオイル 適量

◎つくり方

 トマトはヘタにナイフの先を斜めに入れて、くるりと回してヘタを取り、ヘタの反対側に、十文字に切り込みを入れる。

 沸騰湯にトマトを20秒ほど入れて皮が少しめくれてきたら、冷水にとって皮をむく(湯むき)。

 トマトを保存容器に入れて水600mlを注ぎ入れ、薄く切った潮かつおと黒コショウも加えて冷蔵庫で一晩おく。

 器に盛って、千切りにした青じそと粗挽きにした黒コショウを振り、オリーブオイル少々をまわしかける。

潮かつおの炊き込みご飯

◎材料(茶碗4杯分 おむすびにして約6個)

米 2カップ(400ml分)

潮かつお 約40~50g

生姜 ひとかけ(約30g)

酒 大さじ3

薄口しょうゆ 大さじ1

煎りごま(白でも黒でも)大さじ2

◎つくり方

 米を研いで炊飯器の内釜にいれ、酒と薄口しょうゆ、水を足して420~440mlにして加える。

 潮かつおは細かく刻み、生姜は千切りにして、に加えて普通に炊き、味をみて足りなければ塩少々を補い、好みでごまを混ぜる。6~8等分しておむすびにし、オーブンペーパーでひとつずつ包む。

*ラップに比べて多少通気性のあるオーブンペーパーで包むと、蒸れずにおいしく持ち運べます。

潮かつおとキャベツのパスタ

◎材料(2人分)

潮かつお 40g

キャベツ 2枚

枝豆(茹でて鞘から出したもの)4分の1カップほど

スパゲティ 180g

にんにく 大1かけ

オリーブオイル 適量

粗挽き黒胡椒、オレガノ 適量

塩 適量

パルミジャーノ 適量

◎つくり方

 にんにくは粗みじん切り、キャベツは食べやすくちぎる。潮かつおは刻む。

 1.5~2リットルの湯に塩大さじ1を入れて沸かし、スパゲティを茹で始める。茹で時間が残り2分半になったらキャベツを入れて一緒に茹でる。

 フライパンにオリーブオイル大さじ3とにんにくを入れて中火で熱し、香りがたったら潮かつおを入れて混ぜ合わせる。パスタの茹で汁をお玉1杯ほど加えて混ぜ、茹で上げたパスタ&キャベツを加えて混ぜる。オレガノを混ぜ、味をみて塩、コショウで調える。器に盛って削ったチーズを振る。

水に浸しておくだけでしっかりしたうまみのだしが出る潮かつお。
力強い食材の、うまみのスープをもって出かければ、
いつものピクニックが充実した時間になることうけあいです。

profile

Naomi Edamoto 
枝元なほみ

横浜生まれ。小劇団で役者をするかたわら、東京・中野の無国籍レストランで料理人を務める。その後、アジアを中心に旅行をしながらうまいもの研究を重ね、ジャンルを超えたオリジナリティ豊かな家庭料理を発表し続けている。新聞、雑誌などのほかテレビでも活躍中。著書多数。

ワークショップ参加者募集のお知らせ

umamiのおべんきょうプロジェクトでは、ワークショップ参加者を募集しています。
第2回の講師は「ごはん同盟」さん。

テーマは、あなたにピッタリのごはんとお味噌汁が見つかるワークショップ。

普段、何気なく食べている和食の基本、ご飯とお味噌汁。
お米の品種や味噌(米・麦・豆)、だし(鰹・昆布・いりこ)を変えてみると、
いつもの味がまったく違う味わいになるのがおもしろいところです。
このワークショップでは、品種の異なる3種類のご飯の食べ比べと、
味噌とだしの組み合わせを変えた9種のお味噌汁の飲み比べを体験し、
ご自分の好みに合う味を探ります。
ご飯とお味噌汁の多彩なおいしさを一緒に楽しみましょう。

information

umamiのおべんきょうプロジェクトワークショップ

日時:2017年6月17日(土)12:30~15:00

講師:ごはん同盟

場所:サカキラボ(東京都千代田区神田小川町3-6-8 伸幸ビル6階)

参加料:500円(中学生以下無料)※だしパックお土産つき

※ワークショップ冒頭で、さまざまなだし素材をお好みでブレンドし、オリジナルのだしパックをつくる「だしブレンド体験」も行います。

※定員15名

※親子参加可

詳細・お申込みはこちら

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