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御殿場・御殿流白和え

美味しいアルバム
vol.013

posted:2015.2.6   from:静岡県御殿場市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

濃厚な白和えの味を支える、意外な材料。

前回に引き続き、静岡県の御殿場市よりお届けします。
ご登場いただくのは、引き続きこのお三方。
ナガイちゃん(私の大学の同級生)のお母様、永井すみ代さん。
おばあちゃんの永井いささん。
ご近所に住む、佐藤ちゑさんです。

今回はお母さんに御殿場流の白和えを教えていただきます。
お母さん、ここいらではよく知れた白和えの名人とか。
では続きをどうぞ。

母「東京じゃ、白和えっていうと胡麻使うんだって?」

はい。

母「リエコ(ナガイちゃん)が言ってた。

東京で白和え食べたら、胡麻だったからびっくりしたって」

テツ「あの、お母さん何を使うんですか?」

母「ピーナツ使うのよ、このあたりじゃ」

ほー、それは食べたことないですね。

母「これ、材料」

お母さん、とってもご準備がよくて助かります。

母「それとこれ、スキッピー」

なぬ! 久々に見たぞスキッピー!

子どものとき、好きすぎてパンにつけずにそのまま舐めてたっけな~。

母「ほんとはね、ちゃんとピーナツを擦ってペーストにするんだけど、今日はいいよね」

はい、いいです。

★御殿場流白和え

材料 
絹ごし豆腐 ほうれん草 にんじん こんにゃく 味噌 砂糖 スキッピー(粒なし)

豆腐を水切りしておく(1~2時間)。
にんじんを短冊切りにして茹で、醤油、みりん、酒、砂糖で下味をつけて冷ましておく。
こんにゃくも同様の下処理をしておく(濃いめに下味をつけるのがポイント)。
ほうれん草を塩を入れたお湯でさっと茹で、水気を絞って切っておく。

1. 味噌と砂糖、スキッピーをすり鉢でよくすり合わせる。

2. ボウルに冷ましておいたにんじん、こんにゃくとほうれん草を入れ、も加えてしっかりと混ぜ合わせる。

3. 水切りしておいた豆腐を入れ、ざっくりと混ぜ合わせる。

テツ「けっこう手間がかかるんですね。切ったり茹でたり、練ったり」

母「そうなのよ、1~2時間かかるよね。
だから、いっぺんにたくさん作って、近所に配ったりするの」

ちゑ「この人の白和えは美味しいよ~、美味しくてすぐ食べちゃうよ」

母「おばちゃん、今日もたくさん作ったから持って帰ってね」

ちゑさん、嬉しそうに頷く。

テツ「仕上がったものを撮らせていただきますね」

母「はいはい、どうぞー」

カシャ、カシャ
うーん、つやつやでホワっとしていて、美味しそ~。

母「こんなのも作ってみたけど、どうかな」

! 

朱色のお膳の上に、ずらりとおかずが並んでいる。

テツ「お母さん! すごいですねこれは!」

母「大丈夫? こんな感じで」

テツ「大丈夫どころか、素敵すぎます~」

母「煮豆と、あとこれはちゑさんが作った八頭の茎の酢の物、それとおにぎりね」

うわー、感激~。

母「これ撮り終わったら、みんなで食べましょう」

はい!

パシャパシャ

Page 2

一同「いただきまーす」

まずは白和えから。
おー、クリーミーで滑らかな口当たり。
具材にからんだ濃いめの味付けが豆腐と混ざり合い、ちょうどよい味加減。
スキッピーのしっかりとした甘さと濃厚さが全体にコクを与えている。
胡麻の白和えよりも、こってりずっしりしている。
あら、胡麻よりこっちのほうが好きです。

テツ「いいですね、ピーナツ、美味しいです」

母「あら、そう?」

テツ「ナガイちゃんも言ってましたよ、お母さんの白和えは美味しいんだって」

お母さん、ちょっと嬉しそう。

八頭の茎の酢の物をいただく。
ほんのり桃色に染まった様子が可愛らしい。
シャキシャキの力強い歯ごたえと甘酸っぱい味付け、
疲れた体にガツンと効きそうな一品。

いさ「おにぎりも食べて、お腹空いたろ?」

つやつやと純白な輝きを放つおにぎり、見るからに美味しそう。
いただきます。
しっとりモチモチな食感、甘みも抜群。

母「御殿場コシヒカリっていうのがあるのね、けっこう美味しいのよ」

ちゑ「お豆もどうぞ」

はい! 
甘さ、塩加減、固さと、完璧なバランスの煮豆。
熟練された技が、一瞬にして感じられるお味。

テツ「これ、これ、美味しく炊けてますねー」

母「もともとはおばあちゃんの味だよね。見よう見まねで作ってるけどね」

いさ「美味しく炊けてるよ~」

この柔らかいやり取りが、心地よい。

母「金時豆をね、一晩水に浸しておいて、次の日煮始めるのね。
沸騰したら一度茹でこぼして、水を足してまたしばらく煮るの。
40分くらいかな~、柔らかくなったら砂糖、塩、
隠し味程度に醤油をほんのちょっと入れて味付け。
そこからまた煮始めて、また40分くらいかな。
そしたらそのまま置いておいて、翌日また火にかけて煮詰める。
冷ましてできあがり」

うーーーん、やはり手間のかかった一品。

母「よくこの辺で言うのね、しゃーしゃー煮じゃうまくにゃ~、って。
ざっと煮たんじゃ美味しくないってことね」

いさ「そうそう、しゃーしゃー煮じゃうまくにゃ~」

一同(笑)

ちゑ「やっぱりね、美味しくするには手間ひまかけるってことだよね」

なるほど。

ちゑ「昔はみんな、何でも手間ひまかけて作ってたよ」

母「このあばちゃんはね、どぶろく作りの名手だったのよ。旦那さんがお酒好きでね」

ちゑ「うちのお父さん、朝起きると朝飯と一緒に呑んでたよ。
みんな作ってたよ、あの時分は」

いさ「見つけにくるんだよ、酒税(税務署の酒類指導官)ってのが。
見つかんないように、竹やぶに埋めて隠しておくだ。
そうすると、棒で地面をつつくんだ、酒税が。
ずぼって穴が見つかって、ぜーんぶ持ってかれて、罰金も取られるだ」

ちゑ「いっぺんつらまって(捕まって)沼津の酒税に。
おばさんは酒屋の娘かって、よっぽど慣れた作り方をしているって。
普通、アルコール度数15度なのに、17度あるって」

一同(爆笑)

ちゑ「酒なんか買えなかったからよ、一升300円もしたよ。1957年まで作ってた」

さらりと年数まで出てくるとは、すごい。

ちゑ「夢にも思わなかったよ、こんな豊かで便利な世の中になるとは。
昔は何でも工夫して作ってたよ、醤油でも酒でも、何でも。
いまはみーんな買うね、ちとお金使い過ぎじゃないかと、私なんかはそう思うよ」

大正生まれ、御年90才のちゑさんから出てくる言葉が、とても心に染みる。

母「おばちゃんの手作りのこんにゃくも美味しいよー。漬け物も名人だし」

テツ「ちゑさんの手にかかれば、作れないものないですね」

母「女の子だけはつくれなかったね、おばちゃんとこ、みーんな男の子」

一同(爆笑)

ずーっと話を聞いていたいな~と、この場から離れがたい気持ちになっていた。

テツ「あの、また遊びに来てもいいですか?」

母「どうぞどうぞ」

母「これ、お蕎麦まだあるから持ってく?」

ありがとうございます。

母「これは?」

冷蔵庫と冷凍庫から、次々とお土産を出してくれた。

母「これ、いただき物だけど、かぼすね」

いい香り~。

母「これ、山椒のふりかけ」

手作りふりかけ、美味しそ~。

母「これ、きんぴら。晩ごはんの足しになるでしょ」

ありがたい。

母「駅まで車で送っていくね」

何から何まで、本当にありがとうございます。

ちゑ「あんた、このまま帰るの?」

テツ「はい」

ちゑ「そしたら、正月のお飾りくれてやるよ、うち寄って」

聞けば、ご自分でお米を育て、その藁を使ってお飾りを編んでいるのだそう。

ちゑさんのお宅にお邪魔して、お飾りを3つもいただいてしまった。

ちゑ「またいつでも、遊びにおいでよ~」

手を高く上げ、溌剌とした笑顔で見送ってくれた。
ちゑさんの瞳はどこまでも透き通っていて、輝いていて、それがとても嬉しかった。
ちゑさん、ありがとう。
また来ます。

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