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京都・丹波の田んぼが学校になる日
~田んぼの学校体験記~

宝酒造 × colocal
和酒を楽しもうプロジェクト
vol.019

posted:2015.12.1   from:京都府南丹市  genre:食・グルメ / ものづくり

sponsored by 宝酒造

〈 この連載・企画は… 〉  伝統を継承するということは、昔のものをそのまま受け継ぐだけではありません。
わたしたちの生活に合うよう工夫しながら、次世代に伝えることが、伝統を守ることにつながります。
酒造りの伝統を守りつつ次世代につなげる宝酒造と、
ローカルな素材を活かしてとっておきのつまみを提案するcolocalのタッグで
「きょうのイエノミ 旅するイエノミ」はじまりはじまり。

writer's profile

Yayoi Okazaki

岡崎弥生

おかざき・やよい ●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。

credit

撮影:津留崎徹花
supported by 宝酒造

宝酒造 田んぼの学校(京都府/南丹市)に行ってきました

「田んぼに行ってみませんか?」
宝酒造さんからそんなお誘いがありました。
「ただし長靴と帽子、汚れてもいい服装で来てくださいね」
というのも、稲刈りを手伝ってほしいとか。
田んぼの場所は、京都府南丹市園部町
京都駅からJR山陰線で45分、さらに車で10分。
とてものどかな里山風景が広がる場所だそうです。
それにしても、なぜ宝酒造が田んぼ?
すると、広報担当の奈良さんがすぐに教えてくれました。

和酒は日本の自然風土から生まれたお酒。
穀物や水、微生物など、すべて自然の恵みの賜物で
豊かな自然環境を保ち、受け継がれることが大前提。
宝酒造の環境活動も“自然保護”と“空容器問題”が2本柱で
そのひとつが2004年に開校した〈田んぼの学校〉だそうです。

この学校は小学生とその家族が対象で
2015年度は応募総数380組から抽選で選ばれた24組が参加。
年4回のうち、第1回の田植え編、第2回の草取り編は既に終わり
もうすぐ第3回の収穫編が開催されるとか。
「稲刈りだけじゃなくてしっかり授業もあるんですよ」
田んぼでの授業ってどんな感じでしょうか。

多くの人に支えられています

そう思いながらやってきた南丹市園部町。
園部城跡や日本最古の“天神さん”生身天満宮が有名ですが
その中心部から少し離れた仁江地区にある〈体験田んぼ〉には
朝9時半の集合時間になると親子連れが集まってきました。

今日の参加者は親子20組で計61名。
地元の京都以外に、大阪、兵庫、奈良と
遠くから来ている家族も多いようです。
3回目なので、子どもたちも慣れているのかな。
帽子、長靴、バンダナの“田んぼルック”がちゃんと似合っている。
仁江公民館での始業式が始まると
静かに熱心に、今日のスケジュールやお話を聞いています。

協力してくださる講師の方々の紹介で気づいたのですが
この田んぼの学校は実に多くの人々が関わっている。
NPO法人森の学校・代表の佐伯剛正さんやスタッフの方たち
日本自然保護協会認定の自然観察指導員さん
京都府立大学生命環境学部の先生と学生さん
それに忘れちゃいけない地元農家の方々。
“田んぼ指導員”として、稲刈り指導はもちろん
1年を通じて、この体験田んぼを見守ってくださり
公民館を使わせてもらうのも、地元のご好意があってこそ。
宝酒造京都本社からも社員サポーターが多数参加。
看護師さんも待機して、万全の体制が組まれているのがわかります。

この始業式で印象に残ったのが
「五感を使って楽しんでください」という言葉。
「自分の中の野生を感じて養って。それが将来きっと役立ちます」
小学生の子どもたちにはまだよくわからなくても
この言葉、親世代にはものすごく響くはず。
その後始まった授業でも
無邪気ながらも真剣に取り組む子どもたち以上に
大人のほうが気づかされる場面が多いように思えました。

お米も種、命の源だと理解します

たとえば屋内での自然観察授業。
お米について勉強しようというテーマでは
もみ→玄米→胚芽米→白米と、見て触ってにおいもかいで
ルーペで観察しながらスケッチする。
そのうえで、もみ殻を自分の手でむいてみる。
「ぜんぜんむけない!」
「あー疲れちゃった」
ぼやきつつも「もみすり」の大変さを実感した子どもたち
その作業がないとお米が食べられないことにも気づいたかな。

1粒のお米とじっくり向き合って観察してみると
いつもなにげなく食べているご飯が発芽する種の集合体で
次世代につなぐ命の源をいただいていることを実感します。
さらに大人世代なら作り手の苦労にまで思い至るはず。
これ、誰もがはっとする瞬間じゃないでしょうか。

ちなみに、芽が出るのはもみだけなんだとか。
土に植えて水浸しの状態になっても
もみがらが余分な水気を調整し腐ることを防いでくれる。
自然の仕組みは本当によくできているなと思いました。

よくできているといえば、果物の柿の種。
今日の授業でも上手に割るのに四苦八苦しながらも
子どもたちは双葉の形をした胚をじっくりルーペで観察。
「刃を当てて固い種を確かめながら柿を切って」と
お母さんお父さんが手助けしてくれながら一緒に見た
“白い双葉”は鮮やかな記憶として心に残るでしょうね。

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いよいよ田んぼで稲刈り体験。大人も子どもも鎌を持って刈ります!

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田んぼで命のつながりを学びます

屋内授業の次は、田んぼ周辺での授業です。
観察用具バッグとノート持参で飛び出していった子どもたちは
さっそくバッタやカマキリを捕まえている!
グループごとに同行する自然観察指導員さんたちも大忙し。
その場で名前や生態をすぐに教えてもらえるのがいいですね。

大きなクモの巣を発見した子どもには
稲の葉や茎を食べにくる虫を食べて、稲を守ってくれるのだから
「そのままにしておこうね」とちゃんと理由まで説明してくれる。
すいすいと飛び回るトンボを見ながら
“トンボと田んぼ”の関わりを学んだり。
トンボは稲を刈った後の田んぼに卵を生み
幼いヤゴは水中で、成長すると空中で虫を食べる、いわば田んぼの守り神。
そういえば日本のことを「秋津(トンボの古名)島」ともいいましたっけ。
生き物の名前をただ覚えるだけではなく
田んぼにも命のつながりという自然のドラマがある。
それが無理なく学べるように工夫されています。

また屋外テントでは自然観察指導員さんが
植物の「自生種」と「栽培種」の違いについてレクチャー。
触っただけで実がぽろぽろと落ちるイヌビエと、なかなか実が落ちない稲
この2つを比較しながら、野生植物の生きる知恵を教わります。
次の世代を残すために実を落ちやすくして
動物に食べられないようチクチクするヒゲで自分の実を守る。
「雑草という草はない。みんな名前があるし生きているんだよ」
自然の仕組みや命の尊さを知る環境教育
その格好の舞台が、田んぼなのかもしれません。
ちなみに、イヌと名前についた植物は人の役にたたないものが多いんだとか。
なぜにイヌ? こんな豆知識もおもしろいですね。

農村の人の営みを五感で学びます

午前中の授業が終わったら、お弁当でお昼ごはん。
ひと息入れたら、いよいよ稲刈りスタートです。
稲刈り初心者の参加者をサポートするのは
70歳代が中心で、いちばん若い方でも60歳という
ベテラン揃いの“田んぼ指導員”。

現代の稲刈りは高度成長期の頃から機械化が進み
鎌で稲刈り作業の経験がリアルにある人は農家でも少ないとか。
ならば、今日の「みんなで稲刈り」は
地元の方には懐かしい農村風景の再現になるんでしょうね。

お手本を見せてくださるのは
仁江里山を生かす会代表の谷 義治さんと
かわせみ農園理事長の中西章夫さん。
「稲をまたぐように足を開いて、お尻を落とす姿勢が大事」
「鎌を順手で握って、自分の方に向けて引く感じ」
「うまく刈れたら、ザクッといい音がするからね」
鎌の刃が稲にどう当たればうまく切れるのか。
しっかりと株を見ながら耳をすまし
手の感触を確かめつつ、ゆっくり着実に1株ずつ刈る。
手順やコツを学んだら、親子で田んぼへ一目散。
賑やかな稲刈りが始まりました。

軍手をはめ、鎌を持った子どもたちは元気いっぱい。
最初はこわごわでも、慣れてくるとスピードも上がり
さくさくと刈っていく姿は、そばで見ていても頼もしいかぎり。
各家族の持ち場が決まっているので
自分が田植えをし、草取りをした稲を刈る
その実感が、子どもたちの集中力につながっているのかも。
快晴の空の下、1時間弱ほどで順調に稲刈りは終わり
黄金色だった田んぼはすっかり稲株だけになりました。

刈り取った稲はその場で教材に早替わり。
茎の数がどれほど増えて、丈がどのくらい伸びたか。
1本の稲穂には何粒のお米が実っているのか。
それをしっかり確認したら、最後は脱穀体験です。
千歯こぎを子どもが、こきばしを大人がトライ。
「うまいねー」と褒められる子どもに対して、親たちは四苦八苦。
こきばしは江戸時代まで使われた脱穀器具で
千歯こきは江戸・元禄年間に発明されたもの。
同じ江戸時代の農具でも、使い勝手や作業能率は全然違う。
実際に使ってみると、昔の人の工夫の跡がよくわかります。
伝統的な農体験を通して、自然の恵みと人の営みに感謝する。
これが田んぼの学校の目標でもあるのです。

続けることに意味があります

それにしても、これだけ生き物が多い田んぼも珍しい。
世話役の中西章夫さんにうかがってみると
やはり体験田んぼでは農薬を使っていないんだとか。
「生き物が少ないと、子どもたちががっかりする」と
稲の生育を気遣いながらも、自然のままの田んぼ環境を維持管理。
これを年間通して、となると、かなり気苦労は多いはず。
田んぼの学校をスタートする際に
場所の選定がいちばんの難題だったというのも納得です。

しかも体験田んぼで育てている稲は
京都府固有の餅米〈新羽二重餅〉という希少な品種。
とろけるような甘さがある最高級の餅米ではあるけれど
丈が高くてこけやすく育てにくいため
高級和菓子店の契約栽培がほとんどだそうです。
ここ園部町は京都府のなかでも
おいしいお米の産地として知られているけれど
いまでもこの餅米をつくっているのは
この体験田んぼの持ち主・谷 義治さんの田んぼだけ。
今年は雨が多くてほんまに大変やった、といいつつも
「都会の人たちが喜んで来てくれはるのが楽しいから」と
田んぼの学校に協力しているそうです。

次回12月の田んぼの学校ではこの餅米が主役。
最終回の〈恵み編〉として、親子の料理教室が実施予定です。
きっとおいしいご馳走になるんでしょうね。
残りは宝酒造伏見工場で本みりんにしてもらい
来年春に参加者の家庭に届けられるという試みもおもしろい。
もともと宝酒造の“宝”は“田から”が語源だとか。
田んぼは日本のみんなの宝
それをしっかり学べた田んぼの学校でした。

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