colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

地域とともにカタチづくられる。〈さんごさん〉の現在の姿

福江島の小さな図書館〈さんごさん〉
vol.004

posted:2017.2.28  from:長崎県五島市  genre:暮らしと移住 / 旅行

〈 この連載・企画は… 〉  長崎の五島列島で一番大きな島、福江島。
ここに小さな私設図書館〈さんごさん〉がオープンしました。
島内外の人々が連携してつくった〈さんごさん〉はちょっと変わった図書館。
企画や設計、運営に携わるスタッフによるリレー形式の連載です。

editor's profile

Kenta Oshima

大島健太

おおしまけんた⚫︎1981年神奈川生まれ。 多摩美術大学大学院情報デザイン領域修了後、神奈川県内の高校や都内の美術予備校で講師を務めたのち、約2年前に衝動的に仕事を辞めて無職になる。無職になってからはフィリピンに語学留学をしたり、アメリカやメキシコ、ロシア、ヨーロッパ諸国を旅しつつ、昨年の9月からさんごさんの館長として福江島で暮らし始める。いつまで五島で暮らすのかは未定。

前回までのダイジェスト・・・
2016年8月、長崎県五島列島の福江島に民間の図書館〈さんごさん〉が誕生!
連載第1回では、このさんごさんのオーナー夫妻の鳥巣智行さん、大来 優さんが
なぜさんごさんを始めたのか? ということを話してくれました。
第2回は、“福江島(五島市)のキーパーソン”こと有川智子さんに、
地域目線でさんごさんについて語っていただきました。
第3回は、さんごさんの建築を担当した、能作淳平さんが、
古民家改装について話しました。
今回から3回にわたって、さんごさん館長の大島健太さんが登場。
さんごさんと大島さんを巡る「いま」「むかし」「これから」について語ります。

はじめまして。さんごさん館長の大島です。

昨年の9月から館長として現地の運営をしています。
もともとは神奈川県の出身です。
美術大学を卒業していることもあって、
2年前までは東京都内の美大受験専門の予備校や、
神奈川県の高校で美術科の講師をしていました。
それがひょんなことから、いま、長崎県五島市富江のさんごさんで暮らしています。

生まれてから約35年、ずっと関東地方で暮らしてきました。
アートやファッションといった文化的なものが好きだったので、
東京を離れる理由がなかったのです。

そもそも、離島暮らしや地方移住にまったく興味がなく、
キャンプや登山といったアウトドアの趣味もなく、虫も触れませんし、
離島暮らしにはかかせない車もペーパードライバーでした。
もちろん、さんごさんの館長として福江島を訪れるまで、
五島列島の場所さえ知りませんでした。

そんな五島列島に縁もゆかりもなく、
とつぜん島でさんごさんの館長として暮らし始めることになった私が、
これから3回にわたり、
さんごさんと私を巡る「いま」「むかし」「これから」について書いていきます。

今回はみなさんに、この約半年の間に私が経験したことを振り返りながら、
さんごさんの「いま」の姿をお伝えしたいと思います。

さんごさんの日常

さんごさんは平常、午前11時にオープンして、午後6時にクローズします。
といっても、さんごさんは入館料をいただいたり、
食べものや飲みものの提供をしているわけではないので、
私がやることは看板の出し入れと、扉の鍵の開閉くらいです。

鳴り物入りでオープンしたさんごさんなので、
完成した当初は見学をするお客さんが途切れることなく訪れていましたが、
最近はだいぶ落ち着いてきました。

そのかわり、いまでは平日の放課後になると、地元の小学生たちが訪れて、
さんごさんで遊んだり、宿題をしたりするようになりました。

この小学生たちがいまのところ一番のお得意さんです。
みんなとても元気がいいのですが、
なにかの拍子に怪我をしないか心配なのと、
勢い余って施設を汚したり壊す可能性があるので、
館長としては子どもたちが来るとけっこう神経を使います(笑)。

子どもたちは2階の小部屋が大好き。大人の目から逃れておやつを食べたり(本当はダメ)、ゲームをしたり、おしゃべりしたり。

さんごさんに遊びに来る小学生たちが館長私物のカメラで撮影した写真。「LOVE」のポーズを考えたのも、シャッターを切ったのも、小学生たち自身。

彼らは純粋に本を読むという目的で訪れているわけではありませんが、
数年経って中学生や高校生なったとき、
さんごさんに置いてある本のことをちょっと思い出して
手に取ってくれたらいいな、と思っています。

お客さんがいないときはすべて自由時間、というわけではありません。

さんごさんでは、月2〜3回くらいのペースで
ワークショップやイベントを開催しています。
そのため、お客さんがいない時間は主催者との打ち合わせや、
メールのやりとりをしていることが多いです。

ワークショップを開催するにあたって必要な道具の準備、
近所に貼るためのチラシの制作と配布、FacebookやInstagramといった
SNSを利用した告知もお手伝いしているので、
イベントが重なるときは意外と忙しい印象です。

また、オーナーの鳥巣智行さんと大来優さんが東京にいるため、
運営方針で食い違いが起こらないよう、
こまめにメールやスカイプで情報の共有をするようにしています。
こちらに来る前は「島で何もせずにのんびり暮らせるぞ!」
などと考えていたのですが、目論見が外れました(笑)。

一番の仕事は「興味を持つこと」

現地の方々にお祭りや食事に誘われたらなるべく顔を出すようにしています。
自分が興味を持っていろいろな場所に足を運ぶと、
今度はその場所で出会った人がさんごさんに興味を持ってくれるからです。

こちらで暮らし始めてから、
館長として本当に数々のイベントにお誘いいただきました。

例えば、秋には人生で初めての稲刈りと、お神輿担ぎを経験しました。
年末にはおよそ30年ぶりにお餅をつくことができました。
都会では考えられないくらい、イベントづくしです。

こういった場所で挨拶した人と、
またすぐ別の場所でひょっこり会って話が弾むことが多いのが
島暮らしの特徴ですね。
さんごさんの存在を知ってもらうためには、地域行事への参加は欠かせません。

田尾地区で行われた稲刈りの様子。参加者には若い世代の移住者も多い。

毎年10月に行われる富江神社のお祭り。朝から日が暮れるまで3日間にわたりお神輿を担いで町内を巡る。少し歩くごとに立ち止まり、左右に大きく揺さぶるので1時間に約180メートルしか進まない。

お祭りには地域の子どもたちも参加する。小中学生たちは髪の毛を染めたりお化粧をしたりして、ちょっと大人っぽくなる。

稲刈りと同じく、12月に田尾地区で行われた餅つき。移住してきた若い世代と、昔からこの地域に住んでいるお年寄りたちが交流する絶好の機会となった。

さんごさんがある富江の商店街から車で10分程度走ったところに
丸子という地区があります。

その地域のお祭りは住民の方から
Facebook経由で「来てみてください」というメッセージをいただいたご縁で
なんとなく訪れてみたのですが、とても印象に残るお祭りでした。

お神輿を担いだまま海に入っていくんです。
海の前に鳥居があるところや、丸い小石の海岸が神秘的な雰囲気で、
すっかり虜になってしまいました。
いまでは私の定番ジョギングコースとなっています。

富江の丸子地区にある保尾神社のお祭り。お神輿を担いだまま海に入っていく。小石の浜辺の入り口には鳥居があり、周囲には神聖な雰囲気が漂う。

意外とこの「なんとなく」の気持ちが、
地域の魅力を発見するのに大切なことなのかなぁ、と感じる時があります。
ですので、この丸子のお祭りに「なんとなく」訪れて感動して以来、
誘われたらとりあえず行ってみて、
自分の目で見てみることを心がけています。

富江には〈ごはん屋〉さんという定食屋があります。
近藤淳子さんと三浦久美子さん、ふたりのおかみさんが切り盛りしています。
地元の食材を中心に、素材を生かしたやさしい味付けが評判のお店です。

最初はただお昼ごはんを食べに行くだけだったのが、
お店で使う麦みその仕込み現場を
見学させていただいたことがきっかけで仲良くなり、
いまでは島のいろいろなところを案内してくれるようになりました。

〈ごはん屋〉さんでは年に1回、お店で使う分のみそを店内で仕込んでいる。左がごはん屋さんの近藤さん。右はお手伝いにきた近藤さんのお姉さん。

おかみさんたちはふたりとも富江出身だけあって、
地域のモノやヒトにとても詳しいんです。
一緒にドライブをすると、
一般の人がまず通らないようなところにあるきれいな景色の道を教えてくれたり、
なかなか行く機会のない地元の職人さんたちの工房を
紹介してくれたりと、いつも発見があります。

おかみさんたちは地域交流をテーマとしたイベントの際には
快くお店を貸し出してくれたうえに、
自分たちもお手伝いとしてイベントに参加するなど、
新しいことやおもしろいことにいつも積極的です。

地域交流を目的としたタブロイド紙『五島と鎌倉』が刊行された際の関連イベントが五島で行われた際には、おかみさんたちは場所を貸し出すとともに、企画した島外の人々や、若いヘルプスタッフとともに調理を手伝った。右に立っているのが三浦さん。

さんごさんの館長として普段接するのは
よく訪れてくれる小学生の子どもたちか、
もしくはさんごさんの運営をサポートしていただいている
商店街や商工会の30〜40代くらいの方が多いので、
60代のおかみさんたちのお話はいつも新鮮です。
おかみさんたちがいるおかげで、
富江のまちをより身近に感じることができています。

このように、ずっと館内にいるだけではなく、
さまざまな場所に興味を持って足を運ぶことこそが
さんごさんの館長としての大切な仕事だと思っています。

次のページ
週末のワークショップは、さんごさんの目玉に

Page 2

ワークショップとイベントを通じて地域とつながる

現在のところ、さんごさんは平日は図書館として地域に開放しつつ、
週末にはワークショップやイベントを企画、開催しています。

オープンした当初からほぼ毎月、
定期的に開催しているのが〈本処てるてる〉さんによる出張本屋さんです。

店主の橋本美幸さんは、普段は違うお仕事をされていますが、
お休みの日には島の中で古本の出張販売をしています。
将来は福江の商店街に実店舗を構えることを目標にしています。

〈本処てるてる〉主宰の橋本さん。

橋本さんは本を販売するだけではなく、
毎回子ども向けに読み聞かせもしています。
最初は絵本から始まって、最近では紙芝居、怖い話、五島の民話……
など趣向を凝らした読み聞かせをしてくれます。

陳列の仕方、並べる本のジャンル、価格設定など、
毎月ごとに洗練されていく様を見ていると、
確実に「お店を持つ」という目標に近づいているなと感じさせられます。

橋本さんは以前、保育関係のお仕事をされていただけあって、子どもの扱いや絵本の読み聞かせは慣れたもの。

当初、さんごさんで行われるワークショップやイベントは、
関係者のつてをたどってこちらからお願いをして開催していました。
それが、最近では、地元の方々と協力しながら開催する
ワークショップも増えてきています。

きっかけは、商店街にある、
さんごさんから徒歩2分ほどの〈こはら生花店〉さんというお花屋さんと、
12月の始めにクリスマスリースづくりのワークショップをしたことでした。

このワークショップは、
こはら生花店さんのほうからオファーしていただいた企画です。
これまで「何かやりたい」と思っていても
人が集まれるちょうどいい場所がなかったので、
さんごさんが近くにできたことで実現したとのことです。

右奥に立っているベストを着た女性がオーナーの小原文子さん。中央で教えているのがお店を手伝われている次女の礼(あや)さん。

こはら生花店さんは、
富江の商店街でおよそ30年にわたってお店を続けられていて、
近隣住民の方々からとても慕われているお花屋さんです。
このワークショップを開催するにあたってこはら生花店さんは
親子2代にわたる人脈を生かし、若い主婦の方から還暦の男性まで、
幅広い層のお友だちを誘ってくれました。

そのおかげで、このワークショップは終始アットホームな雰囲気でした。
このワークショップがきっかけとなって、
さんごさんが、それまでよりも少しだけ富江のまちに受け入れられたと思っています。

60代の男性が人生で初めてつくったというクリスマスリース。同じ材料を使っていても、参加者によって差が出るのがおもしろい。

年末年始には島内の高校生と恊働したワークショップを開催しました。
五島市内に15個置く予定のベンチのひとつを、
さんごさんでペイントするというワークショップです。

「ワークショップ形式でベンチを塗ってほしい」
という依頼を商工会から突然いただいたときは、
どういうワークショップにするか散々頭を悩ませました。

オーナーとメールで相談しながら、
最終的にはかつて私が高校の美術科で教えていたこともあり、
地元の高校生たちにどのようなデザインにするかというところから
自分たちで考えてもらって、ペイントをしてもらうことにしました

参加してくれた高校生たちとは高校の図書室や
さんごさんでミーティングを数回にわたって繰り返しました。
そして休日を使ってペイント作業をし、無事に完成させることができました。

お正月にさんごさんで行われたミーティング。アイデアを出すところからみんなで考えてもらった。

完成したベンチと共に。毎朝、通学中のバスの車窓から見える海辺の朝焼けをテーマにペイントした。このベンチは富江の商店街に置かれる予定。

次のページ
地元の高校での講演会も

Page 3

そもそも、なぜ高校生とつながることができたかというと、
実はこのワークショップよりも以前に、
福江にある五島高校でさんごさん発起人の鳥巣、館長の大島、
福江島でデザイナーをしている有川智子さんの3人で
講演会をさせていただいたことがあったからです。

講演の内容はというと、
五島の外から来て活動している「よそもの」である私たちが
五島の魅力や印象について語るというものでした。

講演後、五島高校メモリアルホールにて高校生たちと撮影した集合写真。最前列の右からさんごさん発起人の鳥巣、デザイナーの有川さん、館長の大島。

これは「バラモンプラン」という、
彼らのふるさとである五島の魅力を発見するための
総合的な学習の一環として行われたものでした。

写真の高校生たちのほとんどは、
おそらく2、3年後には進学や就職で島を一度出てしまいます。
そのままだとどんどん人口が減っていってしまうので、
島で就職をしたり、Uターンで戻ってくる若者を増やすことを
目的とした授業です。

この中のひとりかふたりでもいいので、
いつか私たちがしゃべったことを思い出して、
彼らの次の生き方につなげてもらえればと思っています。

また、さんごさんでは、
不定期で〈五島こども大学〉というイベントを行っています。
これは五島出身のコピーライターである中村直史さんを
中心として開催している、子ども向けのワークショップです。

主宰の中村さんは五島こども大学についてこう語っています。

「長崎の離島、五島。
離島だから、大学に行くため、就職するため、
若者の多くは島を離れます。若者ごっそり(私もそうです)。
じゃあ島に大学あればいいんじゃないの、そこで仕事のこととか、
五島のすばらしいところを、学べたらいいんじゃないのかなあ、
と思ってました」

これまで、第1回目にはさんごさんを設計し、
前回の連載も担当してくれた能作淳平さんによる「けんちく学」。
第2回目には富江に工場を持ち、
東京の豪徳寺にも直営店がある浜口水産の濱口貴幸さんによる
「すりみ学」を開催してきました。

昨年10月におこなわれた「すりみ学」は、
近くの港でアジ釣りをしたあと、その場でさばいて、
浜口水産さんの工場の調理場ですり身揚げをつくって食べるという内容でした。

港まで歩いて、アジ釣りをする。

釣ったアジをその場でさばく。左で説明している男性が浜口水産の濱口貴幸さん。

さばいたアジを浜口水産の工場ですり身にして、五島の椿油で揚げる。

つくりたてのすり身揚げは子どもたちにも大評判。最初は魚を触れなくておどおどしていた子も、最後のほうは手馴れた様子で魚を触っていた。

五島で生まれ育った中村さんや濱口さんたちが
島の未来と次の世代のことを考えて
こういったイベントを率先して行う姿には影響を受けますし、
さんごさんの館長としてそのお手伝いができていることに幸せを感じます。

というわけで、さんごさんでは現在、図書館としての機能以外に、
こういった活動を通して地域との交流を深めています。
ここでは紹介しきれなかったできごとやイベントも数多くあるのが残念です。

私が館長として富江で暮らし始めてから、
怒涛のごとくさまざまな経験をしました。
まだまだこれからも新しい体験が待っています。
さんごさんの活動を通じて、
九州の最西端の離島で何かが起き始めていることが
少しでもみなさんに伝わればと思います。

これらの経験は関東で暮らしていたら経験し得なかったことでしょう。
当初は2か月で帰る予定だったのが、
こちらで暮らし始めてもう半年が経とうとしています。

生まれ育った場所から遠く離れて、単身離島で暮らすことは、
家族のことやお金のことなど考えることがたくさんあります。
でも、こちらに来たことは後悔していませんし、
むしろ半年前まで想像もしていなかった新しい人生を楽しんでいます。

では、そもそも東京で仕事をしていた私が
なぜ富江のさんごさんで館長をしているのか?
どうして五島に来ることにしたのか? という経緯を中心に、
次回は「むかし」というテーマで書いてみたいと思います。

information

map

さんごさん

住所:長崎県五島市富江町富江280-4

サイト:http://sangosan.net/

facebook:http://www.facebook.com/sangosan/

Instagram:http://www.instagram.com/353sangosan/

twitter:http://twitter.com/353sangosan

Feature  注目情報&特集記事「日本のクリエイティブ」

Recommend