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連載

島のモノと島のワザで建てる。
私設図書館〈さんごさん〉
のつくり方

福江島の小さな図書館〈さんごさん〉
vol.003

posted:2017.1.22  from:長崎県五島市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  長崎の五島列島で一番大きな島、福江島。
ここに小さな私設図書館〈さんごさん〉がオープンしました。
島内外の人々が連携してつくった〈さんごさん〉はちょっと変わった図書館。
企画や設計、運営に携わるスタッフによるリレー形式の連載です。

writer profile

Junpei Nosaku

能作淳平

のうさくじゅんぺい●ノウサクジュンペイアーキテクツ代表。1983年富山県生まれ。2006年武蔵工業大学(現・東京都都市大学)卒業。長谷川豪建築設計事務所を経て、ノウサク ジュンペイ アーキテクツを設立。現在、東京大学、日本工業大学非常勤講師。SDレビュー2016にてさんごさんが奨励賞を受賞。
http://www.junpeinousaku.com/info

こんにちは。
長崎県福江島(五島市)の私設図書館〈さんごさん〉の
建築設計の担当をしています能作淳平(のうさく じゅんぺい)と申します。
さんごさんのリレー連載は今回で第3回になります。
第1回目では、プロジェクトのはじまりと、なぜ図書館にしたのかという経緯、
第2回目では、島の住民目線で見たさんごさんプロジェクトについてお話ししたので、
今回は、私が初めて五島列島の福江島に行ったときの印象と、
それをもとに、どうやってさんごさんの設計を進めたかを中心にお話ししたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

1通のメールから……

プロジェクトのはじまりは突然でした。
ある日、東京にお住まいの鳥巣智行さんという方から長文のメールが来ました。
鳥巣さんは長崎の出身で、祖父が五島出身ということもあり、
長崎県の五島列島に建つ古い民家をリノベーションしたい、と書かれていました。
また、購入予定の民家や島の写真とともに、
島の歴史や文化について非常に簡潔に魅力的に書かれていて、
すぐにお会いしましょうとお返事を。
実際にお会いすると、鳥巣さんと妻の大来 優さんのおふたりの島への思いは熱く、
打合せを終えた時点で、どうにかしてこのプロジェクトを
実現させたいと思うひとりのファンになっていました。

鳥巣さん大来さんから最初に送られてきた企画書。

島はサイズ感がいい

そんな突然の出会いからプロジェクトに参加することになり、
2015年の夏、初めて五島列島の福江島に行きました。
改修前のさんごさんを確認して、夜は地元の方々と顔合わせ。
初めて島に行って私が感じたのは「島のサイズ感の良さ」でした。
まちがそこまで大きくないので、なんとなくみんな知り合いだけど、村ほど小さくもない。
まちを成り立たせている産業もちゃんと働いている人の顔が見えるんですね。

普段東京にいると、まちはどこまでも続き、
まちにはものがあふれ、何でも手に入ります。
しかし、集まり過ぎると、互いに何が違うかという差異を競ってしまいます。
売れるためには、やはり差別化が必要になります。

しかし、島ではメンバーが限られるため、ずいぶん状況が違う。
もしかすると、自分がいないと島のシステムの一部が停止してしまうような緊張感というか、
差異を競うのではなく、自分には何ができるのか? してあげられるのか?
というボランタリーなシステムに支えられているんだなと。
ここだったら、さんごさんプロジェクトも、
みんなで共有しようという方向に働くなと感じました。

島に住みながらつくる

そして、設計、工事へと進行するのですが、
やはり問題となったのは東京から現場までの距離。
しかもリノベーションの場合は、現場での確認と調整がたくさん必要になります。
床を開けてみたら、思っていた納まりと違うとか、
思っていたより建物が傷んでいるから補修しなきゃ、というふうに。
そして最も気になっていたのが、
東京にいては島の文化や空気感が全然わからないということ。
要所要所に現場に行ってチェックをするだけでは、さすがに無理があります。
なるべく長く島の人たちの近くにいられる方法はないかと……
悩んだ結果、数か月間、島に移住して現場をやろうということにしました。
ということで、うちの事務所のスタッフ石飛 亮くんが島民になることに。

移住した時の石飛くん(当時28歳)。

連載の第2回目を書かれた有川智子さんの手配で、
有川さんの実家の離れに住まわせていただくことに。
東京からの交通費は結構かかりますが、島の家賃は安い。
また、島には鉄道がないので、基本的に移動は車。
島の中古車を格安で購入し、現場用の車に。
島は東京とはものの価格がまるで違うんです。

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そして彼に科された仕事とは……

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現地事務所という名のブログをつくろう!

現場と事務所をつなぐのは電話、メール、せいぜいテレビ電話です。
何かいいやり方がないかと考えて、スタッフ石飛くんに課したお仕事は、
さんごさんプロジェクトのブログの更新です。
え……? なぜここで広報活動なのか? と思われるかもしれませんが、
東京にいる私と現地のスタッフ石飛くんにはどうしても認識の差ができてしまいます。
特に島ではどんどん新しい経験をしていくことになりますから、
なかなかメールでは伝えられない内容も増えます。
そこで、ブログという媒体を使うことで、
島のことを知らない人(私も含め)にも伝わるように語れるのでは? と思ったからです。
何よりブログを更新するにはネタが必要です。
そうすると、島についていろいろ調べたり、
積極的に地元の人とコミュニケーションをとることになります。

http://tomiesiteoffice.tumblr.com/

このブログでは島にある素材である溶岩などで手づくりされたプロダクトを紹介する回や、
地元のおいしいものを差入れにいただいた回や、
全国的に広がっている空き家、過疎化に問題意識を持つ回があったり。
私もブログの一読者として読んで思ったことをもとに指示をしました。
「こんなにおもしろいのであれば、もっとそれを生かしたほうがよいのでは?」という感じで。
(大体つくるのが大変なことばかりでしたが……)
そして建物のデザインをするだけではなく、島の魅力をいろんな人に伝えることも目指しました。

島にはたくさんのものがある

そのブログの記事の一部です。

2016.05.22 (sun)
五島にはいわゆるチェーン店などはほとんどなく、
一見何もない不便な田舎のようにも見えますが、
実はあらゆるところにこの島独自の魅力的なモノが点在しています。
そしてそれらを自分たちの手で、
最大限に生かそうと試みている人たちがこの島には数多くいるように感じます。
日常の至る所に設計のヒントが転がっていて、毎日が発見の連続です。
(石飛 亮)

ブログにもあるように、確かに一見ものが少なくて不便なように思えますが、
そのかわりにほかにはない豊かで魅力的なものがたくさんあります。

例えば、溶岩。
島は火山によってできているため、
いろいろ所で溶岩を見ることができます。
海岸にはごろごろと溶岩があったり、
民家の基礎石や塀に使われていたり。

また、さんごさんがある富江は、かつてさんご漁で栄えたまち。
いくつものさんご店があり、漁から加工、販売までされています。

家の外観も特徴的で、外壁が朱色に塗られています。
船舶用に使われていた塗料が潮風に対して丈夫だということで、
このあたりの地域で広まり、まち並みのようになっています。

まだまだたくさんありますが、このように島には特徴的なものがいくつもあります。
どれも都会では手に入れようと思っても、なかなか難しいものばかりです。
これらをヒントにして建物をつくっていけないか? と考えるようになりました。

溶岩でできた塀と朱色のまち並み。

さんごの端材をさんご店より譲っていただきました。

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さんごも立派な建材に!

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島のモノ、島のワザでつくる

そんなものの宝庫である一方で、島は変わりつつあります。
過疎化が進み、空き家が多く残ってしまい、
戦前に建てられた立派な民家も使い手が不在のため無残に解体されています。
もし今、同じ建物をつくろうとすると大変なものばかりです。
また、高齢化が進み、島特有の技術や、
かつては栄えた産業も少しずつ見られなくなっています。
そこで、さんごさんの設計で大切にしたのは
「島のモノや島のワザでつくる」ということです。
では、実際につくっていったお話をしたいと思います。

1.さんごペンキ

さんごさんの外壁は周りの家と同じ朱色です。
それに加えて、さんごの朱色という意味も重ね、
少し明るい色に調合し、さんごさんのイメージカラーにしました。
まちの風景に馴染みつつも、愛嬌のあるさんご色の外観を目指しました。
島の子どもたちと一緒にペンキ塗りワークショップを開いたり、
ご近所の方々に手伝っていただいての施工になりました。

外壁の塗装のサンプル。いろんな朱色の検討をしました。

さんごペンキワークショップの様子。

2.溶岩たたき

島のお墓参りは独特で、自分のご先祖のお墓だけでなく、
同じ地域の人たちのお墓も回ってお線香をあげていきます。
そのため、お墓は広々としていて、人を招き入れるようになっています。
子どもたちは花火をしたり(お墓で花火と聞いて最初はびっくりしました……)
太鼓を使った島独自の念仏踊り(チャンココ、オネオンデ、オーモンデーなど、地域によって呼び名が違う)をしたり、
お墓は地域にとって大切なコミュニケーションの場所になっているようです。
それを支えるために、島には石碑店も多く、石材加工の技術も高い。

お盆の様子。お墓には家紋の入ったちょうちんが下げられる。

石碑店で溶岩をカットする様子。

そこで、この石材加工の技術と島でよく見る溶岩をかけ合わせることで
溶岩特有の表情をつくれないか?と考えました。

例えば、階段の踏み石にしたり、
小石状の溶岩を土間のたたきに散りばめてみたり。
ここに訪れた人に、あらためて島の溶岩の存在を感じてもらえればと思います。

写真左が階段の踏み石に。土間には“さんごさん”にかけて3つと5つの溶岩を埋め込む。

3.さんごテラゾー

昔、流し台や床材などによく使われた建材にテラゾーというものがあります。
これは、セメントに細かい石を混ぜて、大理石に似せてつくる技術なのですが、
既製品の建材が普及した今ではあまり見かけなくなりました。
さんごさんでは、そんな消えかけた技術のテラゾーでお風呂とキッチンをつくりました。
今回は小石の代わりにさんごのかけらを入れた高級テラゾーです!
ご近所のさんご店から端材をいただいてつくることができました。
世界でここにしかない、さんごのテラゾーです。

さんごの端材を散りばめる。

コテで押さえたあと、研磨するとさんご色の大理石のように仕上がる。

さんごテラゾーでつくられた浴槽と脱衣用のベンチ。

4.大引テーブルと矢板本棚

もともと民家だった建物を地域の図書館に改修するので、
多くの人が入りやすいように家の真ん中に土間をつくりました。
そのために床の骨組みを解体するのですが、その廃材を再利用して、
図書館に必要な本棚やテーブルをつくりました。
畳の下地だった矢板は本棚の棚板に。
床下の骨組みの大引は寄木のようにつなぎ合わせてカンナをかけることで
大きなテーブルにしました。

床下の様子。丸太状の木が大引。

大引を削る。

中央に大引テーブル。右が矢板でつくった本棚。

5.たたみ土壁

また、廃棄された畳も再利用してます。
畳の中身の藁を細かく砕いて土壁のつなぎとして使います。
建物の解体で出た土も使い、藁を混ぜて土壁の材料をつくります。
その場にある材料をもう一度リサイクルすることで、
その場所の歴史を終わらせないで、新しいものをつくることができます。

廃棄する畳の中から藁を取り出す様子。

土壁施工の様子。

ものを通してつながる可能性

土壁の材料をつくったり、土壁を塗ったり、さんごペンキで外壁を塗ったり、
ありがたいことに、さんごさんは施工中、地元の方々にたくさんお手伝いいただきました。
また「ここに行けば、いいものがあるよ」と島の情報を教えていただいたり、
ご好意で譲っていただいたり。
その結果、さんごさんは島のものに大変恵まれた建築になりました。

変に近代化された見ず知らずのものを島に持ち込んでしまうと、
島の良さが崩れてしまうし、どうやってそれを扱っていいかもよくわからない。
島の人が知っているもの、もしくは島の人しか知らないものを使って建築をつくることで、
多くの島の人たちが参加できる建物になってくれるのでは?と感じています。

魅力の寿命を延ばす

しかし、ただ単純に島のものを残すだけでは、いわゆる保存になってしまいます。
そのようなノスタルジックな美意識だけでつくってしまうと、
今の使い方やつくり方に対してどこか無理をすることになってしまいます。
もう一度その素材をよく観察して、今の暮らし方に合わせて更新する。
そうすることで、ものはもう一度新鮮さを取り戻して、また寿命が延びます。
この島にはこんなにいいものがたくさんあるということを
次の世代に、もしくは島に訪れる人に伝えることができたら、と思っています。

そして、2016年の夏よりさんごさんはオープンして、
今では、いろいろなところから人が訪れるすてきな場所になってきています。
次回は、そんなさんごさんを現地で支えている、さんごさん館長の大島健太さんのお話です。
それでは、大島さん、バトンをお渡しします!

information

map

さんごさん

住所:長崎県五島市富江町富江280-4

サイト:http://sangosan.net/

facebook:http://www.facebook.com/sangosan/

Instagram:http://www.instagram.com/353sangosan/

twitter:http://twitter.com/353sangosan

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