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連載

「何もない」からの脱却。
〈さんごさん〉の誕生で
富江はどう変わった?

福江島の小さな図書館〈さんごさん〉
vol.002

posted:2016.12.6  from:長崎県五島市  genre:活性化と創生 / 暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  長崎の五島列島で一番大きな島、福江島。
ここに小さな私設図書館〈さんごさん〉がオープンしました。
島内外の人々が連携してつくった〈さんごさん〉はちょっと変わった図書館。
企画や設計、運営に携わるスタッフによるリレー形式の連載です。

writer profile

Tomoko Arikawa

有川智子

ありかわ・ともこ●草草社代表。五島市(福江島)生まれ、長崎市育ち。大手住宅メーカーの研究所に務め、2011年より五島市に移住し起業。地域のデザイナーとして企業や行政などのプランディング・商品づくり、まちづくりに携わる。2013年、母と共にコミュニティカフェ〈ソトノマ〉をオープン。現在も〈さんごさん〉と同じ富江町の田尾地区で廃校小学校の再生プロジェクトを進行中。

前回までのダイジェスト・・・
2016年8月、長崎県五島列島の福江島に民間の図書館〈さんごさん〉が誕生!
連載1回目では、このさんごさんのオーナー夫妻で東京在住の、鳥巣智行さん、大来 優さんが
なぜさんごさんを始めたのか? ということを話してくれました。
今回は“福江島(五島市)のキーパーソン”こと有川智子さんに、
地域目線でさんごさんについて語っていただきます。

さんごさんの連載リレー2回目を担当する、
五島列島の福江島でデザイナーをしている有川智子です。
2011年に福江島にUターン移住し、早5年が経ちました。
以前、コロカルで掲載された〈ソトノマ〉も、
ますますいろんな人が訪れる居場所に育っています。
普段からデザインの仕事と並行して、島ライフがどうしたら楽しくなるかを考える毎日です。

1回目の記事で、さんごさんオーナーの鳥巣智行さんから島で取り組んでいることや、
これまでの仕事のことなどは少しご紹介いただいたので、
今回は島に住む人という視点で、さんごさんについて触れてみたいと思います。

一番左が有川です。右の2人は尾道から移住してきたソトノマスタッフのみくくんとさきちゃん。

さんごさんのある富江というまち

さんごさんのある富江町は、島に観光に来ても、
目立った観光地があるわけでもないので、
知らない人が積極的に立ち寄るような場所ではありません。
島のなかで人口は2番目に多い地域ですが、
島の人に「富江ってどんなところ?」と聞いても、
たいていは、「なんにもない」とか、「昔よりも活気がなくなった」とか、
確実にそんな返事が返ってくるような、普通の地方の過疎のまちとなんら変わりない、
日本の西の端、離島の小さなまちです。

しかし、島の人のそんな認識とは裏腹に
私は、移住当初から富江というまちに限りない可能性を感じています。
密かに「富江は世界一になれる!」と思っているくらい富江推しです。
こんなことは誰に言っても、だいたいぽかんとされますが、
けっこう大真面目にそう思っていますし、その魅力をいろいろな人に知ってほしい、
共有したいと思い日々あれやこれや取り組んでます。

なぜそんなに西の果ての離島の過疎のまち「富江」がいいのか。
そう思う理由はいろいろありますが、大きくは以下の4つのような気がしています。

1.富江はコンパクトシティ

公共施設、商店街、こども園や小中学校、病院などが徒歩圏内にみっちり集約してます。
さんごさん館長の大島健太さんは、移住して3週間くらいほぼ富江から出ずに
(ペーパードライバーだったこともありますが)何不自由なく暮らしていました。
商店街には暮らしに必要なだいたいのお店があり、
富江で買えないものはインターネットですぐに注文できる時代です。
普通に日々の暮らしをする分には不便がありません。
娯楽と呼べるものはあまりありませんが、
むしろ、混んだ電車にも乗らず、旬の食を楽しみながら
気ままに散歩しながら生活できるのは、気楽で幸せです。

富江小学校の校庭の大木(あこうの木)の下で。

2.富江はネイチャーアクティビティの宝庫

とにかく、歩けば自然に当たるくらい、自然が身近なので、
釣りでもハイキングでも海水浴でもやりたい放題です。
疲れたらなんと近くに天然温泉もあります。

多郎島海水浴場。キャンプ場も併設しています。

3.富江はフロンティアスピリッツ満載

個人的な感覚ですが、島の中でも進取の気風というか、
新たなことに取り組む風土や人が多い気がします。
いろいろな新しい試みを後押ししたり、見守ったりする寛容さも、このまちの特徴だと思います。
それは、この小さな地域にかつて富江藩という独立した藩が存在したことや、
珊瑚漁などで外国とも交易し、栄えた文化も背景にあるかもしれません。

4.富江の食の豊かさ

富江はさまざまな食の生産拠点で、魚介類はもちろん、
海藻・米・野菜・果物・牛・豚・鶏など、生きていくのに余りある、
ありとあらゆるものがこの小さい地域の中で採れます。
そして、おいしい。

農業も漁業もさかんでいろんな食材が採れ、豊かです。日本三大珍味のからすみも富江でつくられています。

それぞれの要素は、どの地域にもあることかもしれませんが、
これが小さな地域の中ですべて揃う富江は日本、いや世界最強説……
を勝手に唱えています。

とは言っても、人口も減り、高齢化も進み、娯楽もなく、
産業も衰退しているというまちに小さなさんごさんができることで、
どんな変化が生まれるのでしょうか。

次のページ
ウチとソトをつなげるときに気をつけていることとは?

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自宅を地域に開く

さんごさんは、普通に考えると東京在住のオーナー夫妻の島の家です。
個人の家なので、別にオーナーの好きに使っていいし、
そもそも知らない人を家の中に入れる必要はありません。
しかし、オーナー夫妻は、東京にいながら、
島の自宅を地域に開くという決断をしました。
そして、地域の人たちの声を聞いて、住まいの中に私設図書館というかたちで
地域に開く要素を取り入れることを決めました。
できてしまえば、難しく感じないかもしれませんが、
この決断は自分の資産を地域のためにシェアするということであり、
このことは、さんごさんを取り巻く周囲との関係づくりにおいて、
とても大きな意味を持つことだと思うのです。

さんごさんの空間や運営に関しても、島の人・ソトの人でいろんな意見を交わしました。

さんごさんは富江の人たちが欲しいと思っていた空間を
島のウチとソトの人と一緒につくるという、ある意味不思議な場所です。
自然と島の人にとっては欲しい空間を得る代わりに、
さんごさんを見守るという責任が出てきます。
また、オーナーにとっては自分たちがいない間も、
地域の人がさんごさんを見ていてくれる、
愛着を持って活用してくれるといったメリットが生まれます。
退職後などに地方移住を考えている方も多いと思いますが、
子どもや仕事などの関係がないなか、新たな土地で新たな人間関係を築くのは
難しいことも多いと思います。

この間、鳥巣さんがさんごさんを訪れたとき、
富江の人が「あー鳥巣さん、おかえり!」とか、
「来年は祭りのときに帰ってこんばー(こないと)」とか、
話しかけているのを聞いて、
自分の住まいを地域に開くメリットはこういうことなんじゃないかと思いました。
決して、お金では得られない、人とのつながりや信頼関係を、
若いうちから、好きな土地や将来住みたい場所に少しずつ根を下ろし、
ゆっくり広げていく。
新たな場所で「おかえり」と言ってもらえる関係を本格的に移住する前からつくる。
それは、自宅を地域のために開いたからこそ得られた、大切なつながりだと思います。

ウチとソトをつなぐとき心がけていること

私は、島でいろんなことに取り組んで、ソトにも情報発信していることもあって、
内外いろいろな人から仕事や移住、島コン、観光、商品づくりなど、多種多様な相談を
毎日のように受けます。
それはとても有り難いことで、その対象も、
仕事先だったり、お友だちだったり、まったく面識もつながりもない人だったり、
本当にバリエーションに富んでさまざまです。

こんな感じでどこにいても、つながったり話ができるので、ほんとに不便を感じずシームレスな時代だなと思います。

普通はこんな地方では得られない、誰もが羨むような刺激のある毎日ですが、
一時期は、地域のキーパーソンと呼ばれる人なら、誰でも一度は陥るであろう、
物事が集中することによるオーバーワークや相談疲れ、
プライベートを犠牲にすることによる
「あれ? 自分がしたい暮らしってこんなだっけ?」症候群になった時期もあります。

そんなときに読んでみた本が、
タイ・スカトー寺で副住職をされている
プラユキ・ナラテボーさんの『苦しまなくて、いいんだよ。』(PHP研究所)でした。
(さんごさんに人生の3冊として寄贈したいと思います。笑)
自分自身はキリスト教や仏教など特定の宗教にそんなに興味はないのですが、
「いまここ」「この瞬間」を感じて大切にするという
シンプルな教えにすごく救われました。

たくさんの仲間に囲まれて、出会えてワイワイできることが宝だなと思います。

やっぱり変わらないことは、そのとき、その瞬間に自分にもたらされる
ウチやソトからの、つながりや情報、お願いごとなどは、
きっと必然で、なにかしら新たな可能性を開いてくれる“種”なんだろうという思いです。
だから、いちばん大切にしていることは、先入観をもたず、フラットな気持ちで
いろいろな物事に接するということです。
「この人とは合わなさそう」「この話はおもしろくなさそう」
「この移住希望者は島にはなじまないかも」など、
最初の自分だけの感覚でシャットアウトすることだけはするまいと、
なんとなく思っています。
自分ひとりのフィルターで、
もしかしてすごくいい結果に広がるかもしれない機会を失うことは
島にとってもったいないと思うからです。

いい結果につながることもあれば、島の人に迷惑をかける結果になることもあります。
しかし、それは運命や相性、その時のタイミングなど
いろんなことが関係してくるので、
今は結果オーライ! なるようにしかならないと思っています。
そのなかには、さんごさんのように、地域に大きな幸せや恩恵をもたらすことに
つながる出会いも紛れています。
だからこそ、ひとつひとつの出会いをできる限り丁寧に、自分のできる範囲で
大切におつき合いしていきたいと考えています。

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富江にさんごさんができて生じた変化

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さんごさんができて

2016年8月にさんごさんができてから、富江には少しずつ変化が生まれています。
目に見える変化としては、やはり訪れる人が増えていること。
島の中はもちろん、島の外からもさんごさんを目指して来る人もいます。
さんごさんができることで、これまで足を運ばなかった人が富江にわざわざ来て、
この空間でそれぞれの時間を過ごすということが起こっています。

老若男女、外国からも人が訪れ、新たな交流が生まれています。

また、これまで島になかったさまざまなカルチャーや知識、人に触れる機会が増えたことも
さんごさんができて生まれたすてきな変化のひとつです。
さんごさんを拠点に、その道のプロが子どもたちに教えてくれる「五島こども大学」や、
商店街の店主が先生の「まちゼミ」、そのほかさまざまなワークショップなどが開催され、
外の人から見た島の魅力なども聞くことで、
島の価値や良さについて、島民が再発見する機会も増えてきました。
島ってすごいんだ、自分の住んでる場所にこんないいところがあるんだ、
こんなかっこいい大人がいるんだ。そんなことを生で感じられる場です。
大人が真剣に子どもたちに向き合っている姿も、すごくいいなと思います。
こんな活動がいつの日か、島に戻りたいとか、
島のために何かしたいという想いにつながるのかもしれません。

五島こども大学の様子。建築家の能作淳平先生の「けんちく学」の授業風景。

まだ、できて間もない、発展途上のさんごさんですが、
常駐する初代館長の大島さんの愛される人柄もあり、
地域になくてはならない、ないとなんだかさみしい。
そんな存在に成長しています。
地域の子どもたちにとっては、放課後や休みの日を過ごす暮らしのなかの居場所として、
そしてふらっと寄れる場所として、定着しつつあります。
さんごさんが、富江のまちに馴染み、
なくてはならない居場所にますます育っていくのを
これからも、島の住民のひとりとして、
あたたかくサポートし見守っていきたいと思います。

さんごさんの日常やすてきな空間のことは、今回書ききれなかったので、
また次回以降、リレー形式で書いていきますので、これからも楽しみにしてください!
次は、さんごさんの建築を担当した能作さんにバトンタッチです!

information

map

さんごさん

住所:長崎県五島市富江町富江280-4

サイト:http://sangosan.net/

facebook:http://www.facebook.com/sangosan/

Instagram:http://www.instagram.com/353sangosan/

twitter:http://twitter.com/353sangosan

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