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連載

築80年の古民家を改築
私設図書館〈さんごさん〉の始まり

福江島の小さな図書館〈さんごさん〉
vol.001

posted:2016.11.11  from:長崎県五島市  genre:活性化と創生 / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  長崎の五島列島で一番大きな島、福江島。
ここに小さな私設図書館〈さんごさん〉がオープンしました。
島内外の人々が連携してつくった〈さんごさん〉はちょっと変わった図書館。
企画や設計、運営に携わるスタッフによるリレー形式の連載です。

writer profile

Tomoyuki Torisu

鳥巣智行

とりす・ともゆき●1983年長崎生まれ。千葉大学大学院デザイン専攻修了後、広告会社に入社。お菓子からロボットまで企画開発に携わる。長崎原爆の資料をデジタル地球儀上にアーカイブする「Nagasaki Archive」や長崎の魅力を再発見する「長崎は、日本の西海岸だ!」の制作など、長崎のプロジェクトにも取り組む。好きな食べ物は焼き鳥。

Yu Orai

大来 優

おおらい・ゆう●1983年生まれ。町田育ち。東京芸術大学卒業、広告会社に入社。アートディレクター。カンヌチタニウムグランプリその他、D&ADブラック・イエローペンシルその他、メディア芸術祭大賞、アドフェスト、クリオ、スパイクス、NYADC、 ONE SHOW、ACC、グッドデザイン賞、様々な国内外の広告賞を多数受賞。特技は水泳、趣味はスノードーム集めとけん玉。好きな漫画は名探偵コナン。

五島との縁。家との出会い

はじめまして。〈さんごさん〉発起人のひとりの、鳥巣智行です。
さんごさんは、長崎県の福江島にある築80年の古民家を改修してつくった
小さな民間の図書館です。
縁もゆかりもないわけではないですが、東京在住のわたしたちが
なぜさんごさんを始めることになったのか。
今日はそのことについて、書きたいと思います。

長崎のさらに西の海に浮かぶ五島列島の福江島に、
初めて足を運んだのは2001年。18歳のときでした。
中学時代の友人とふたりでヒッチハイクで島を一周し、
そのときに見た高浜の美しさや、大瀬崎の迫力、
出会った人のやさしさに惹かれて、
それから頻繁に足を運ぶようになりました。

福江島の西側にある高浜海水浴場(冬)の青い海と、白い砂浜。夏はもっと青いです。

カクレキリシタンが迫害を逃れて辿り着いた島、五島。市内にはたくさんの教会があり世界遺産候補となっています。写真は煉瓦造りが美しい堂崎教会。

わたしの両親は、ともにキリスト教徒です。
その両親から、いつだったかは覚えていませんが、
父方の曽祖父は五島列島の久賀島出身で、
母方の曽祖母は福江島出身だということを聞かされました。
わたしには五島の隠れキリシタンの血が流れているのではないかと、
意識するようになりました。

さんごさんのもうひとりの発起人は妻の大来(おおらい)優。
東京の町田市で育った彼女は、祖父母が住む山口の田舎で過ごす夏休みが好きだったそうです。
自然が好きな彼女は、五島のこともすぐに好きになりました。
冬の五島、夏の五島を一度ずつ訪れて、2012年には福江島の楠原教会で結婚式を挙げました。

2013年。初めて友人家族と五島を訪れた。コミュニティカフェ〈ソトノマ〉の前で。一番左が大来。左から2番目が筆者。

それから毎年夏になると、友人家族とみんなと五島で遊ぶのが恒例となります。
困るのが、宿でした。
五島はハイシーズンになると、なかなか宿がとれません。
ホテルも高額なため長期滞在するにはもうちょっと手軽な価格帯の宿が
ないかなと思うようになりました。
自分たちに合ったちょうどいい滞在先を探しながら、
どうせだったら仲間で集まれる場所を
つくってしまったほうが早いんじゃないかと考えるようになりました。

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島のキーパーソンとの出会い

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そういうわけで、ネットで物件を探してみますが、いい物件にはなかなか出会えません。
リタイアした頃にでも本気で考えればいいかと思っていた矢先、
五島旅行で知り合ったデザイナーの有川智子さんが、
facebookで空き家情報を投稿しているのを発見しました。
「なんか良さそう」と直感し、すぐに見にいく手はずを整えました。
その古い民家が、のちにさんごさんとなる築80年、空き家歴30年の家です。

有川さんがfacebookにあげていた写真。

有川さんとの出会い

ここで、時間軸は前後してしまうのですが、
物件を紹介してくれた、有川さんとの出会いについてふれておきます。

コミュニティカフェ〈ソトノマ〉。

有川さんとの出会いは2013年の夏。
結婚式を終えて、初めて友人家族と五島旅行に行った年です。
五島に新たにおしゃれなカフェができたという
噂を耳にしてそのカフェ〈ソトノマ〉へと行きました。
そこにいたのが有川さん。
あまりに居心地がいい場所で、それからというもの、
五島に行ったら必ず立ち寄る場所となりました。

有川さんは大阪で大手住宅メーカーに勤務したのち、お母さんと一緒にUターン。
五島の本山という地域でコミュニティカフェをスタートさせました。
現在有川さんはソトノマの経営をお母さんにまかせ、
島を拠点にデザイン業を営んでいます。
五島の感じがいいお土産のデザインのほとんどは、有川さんが手がけたもの、
といっても過言でないくらい、島の「デザイン力向上請負人」です。

有川さんがデザインを手がけた椿オイル。

デザインだけではありません。移住の相談に乗ったり、仕事や住居を紹介したり、
幅広い活動をされているので、島のおもしろい情報や人が
自然と彼女のまわりに集まってくる……。そんな存在だと、わたしはみています。
そんな彼女が紹介する物件なのだから、
きっといい物件だろうと直感したのでした。

どんな現場にも「キーパーソン」がいると思うのですが、
有川さんは明らかにさんごさんのキーパーソン。
彼女に導かれるようにしてさんごさんプロジェクトはスタートしていきました。

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リノベーションは自分たちで、ではなく

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能作さんとの出会い

手を入れる前の物件の外観。

その家は30年間空き家だった割には状態が良かったのですが、
リノベーションは必須。
物件の購入を具体的に検討するようになって、
リノベーションをお願いする建築家のことも考え始めました。
何名か知り合いに相談してみましたが、
なかなかわたしたちが思っているようなかたちで、
受けてもらえそうな建築家はいませんでした。
ネックとなるのは予算がないこと。
こればかりはどうしようもないなあと思いながら、
「今、家を頼むべき建築家」といった類の特集の建築雑誌を
パラパラとめくっていたときに、そこに掲載されていたのが
富山県出身で東京在住の能作淳平さんでした。
彼が手がけた自宅のリノベーション事例が紹介されていて、
なんだかとても感じが良さそうだと感じました。しかも同い年。
妻とも相談し、メールを書きました。そして、会うことになりました。

富士見台団地をリノベーションした能作さんの当時の自宅。気持ちのいい空間でした。

5月の終わり。能作さんの自宅へお邪魔しました。
蒸し暑い日でしたが、ご自身でリノベーションした自宅は
とても風通しがいい場所で気持ちがよかった。

事前につくっていった資料を見せながら
ひととおり考えていることを伝えました。
そのうえで予算を伝えたところ、電卓をはじいて、
「この部屋は1平米あたりこのくらいの費用で改装したので、
この部屋のような仕上がりだったらその金額でも実現できると思います」
というお返事をいただきました。なるほどと妻とうなずき、
この人と一緒に取り組んでみたいなと思ったのでした。

お金がないなら自分たちでDIYで、という選択肢もあったのかもしれませんが、
そうしなかったのにはふたつ理由があります。
ひとつは、東京で働きながらそれをやるのは時間的に難しいということ。
もうひとつは、島のポテンシャルと島の外の才能を掛け合わせることで、
新たな魅力をつくることができるはずだと考えたからです。
建築はその場所に足を運ばなければ体験できない、転送不可能なコンテンツ。
建築的な魅力を備えた場所になれば、来島者を増やすきっかけになるはずです。

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まちの中心に図書館を

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なぜ図書館になったのか

物件購入を具体的に検討するなかで、悩んだのが「管理」です。
東京で仕事をしている以上、島に行けるのは年に2~3回。
使われなければ家はどんどん傷んでいくことを思うと、
普段は地元の人に使ってもらえる場所にしたほうがいいと考えました。
そのためには、地元の人がどんなものを求めているか知りたいと思い、
有川さんにお願いして、物件がある五島市富江町の方々と
話をする機会をつくっていただきました。

富江のみなさんと、初めての顔合わせ。2軒目のスナックにて。

2015年の、8月末。
能作建築事務所のみなさんとともに、物件の状態を確認しに五島へ行き、
その日の夜、初めて富江の人たちと顔合わせしました。
居酒屋に集まった、十数人のエネルギッシュな富江人。
いろんな話をしましたが、特に気になったのが、
「富江には大きな本屋や図書館がないので、図書館が欲しい」という意見でした。
図書館というアイデアはまちの中心にあるあの家にぴったりだねと、
1軒目から2軒目のお店に向かう道中、妻と話をしました。

また、図書館と聞いてわたしは自分自身の高校時代を思い出していました。
わたしが進学先の大学を決めたのは、学校の図書館の司書さんが
すすめてくれた本がきっかけでした。
時代は変われども、本が集まる場所、人が集まる場所での出会いが、
島の子どもたちや、旅行で五島を訪れた人たち、
さんごさんに関わる人たちの人生を、少しでも変えるきっかけとなるかもしれない。
そんな場所になるといいなと、思ったのでした。

人生の3冊

図書館としてのさんごさんの一番の特徴は、
いろんな人の「人生ベスト3の本」に出会えるというところです。
これは、妻、大来のアイデア。

「古い民家を改装して図書館をつくろうと思っています」という話をすると、
「うちにもいらない本がたくさんあるから、もらってほしい」と言われることがよくあります。
お気持ちはとてもうれしいのですが、もともと民家だった場所ですので、
本棚はそんなに大きくなく、いろんな方から「いらない本」をいただいていると、
それだけで本棚がいっぱいになってしまいます。
これはどうしたものかと思っていたところ、
大来が「人生ベスト3」の本を集めるというアイデアを思いつきました。

大来の3冊。漫画でも雑誌でも写真集でも、なんでもOKです。

3冊を選ぶのって、やってみるとわかるのですが、けっこう難しいです。
2冊まではすぐ決まるけれど、3冊目をどうしようとか、
10冊くらいだったらすぐに選べるけど、
そこから3冊にしぼるのはどうしたらいいだろう、とか。
そうやってみなさんが厳選した3冊だけがさんごさんの本棚には並んでいます。
あれをつくった東京藝術大学の教授は、こんなことを子どもたちに伝えたいのか、とか。
あの漫画を描いた漫画家は、こんな3冊を読んで育ったのか、とか。
その3冊からそれを選んだ人の、人となりや価値観にふれることができます。
漫画家から、地元のバスガイドさんや、おじいちゃん、おばあちゃんまで、
さまざまな人の「人生の3冊」を通して、寄贈してくれた方とも
コミュニケーションしてもらえるとうれしいです。

選んだ理由を記入するシートを本に添えて寄贈していただいてます。詳しくはこちら

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名前とロゴにこめた思い

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さんごさんという名前と、ロゴについて

ちなみに、さんごさんを始めるまで、何度も福江島には足を運んでいましたが、
島の南東に位置する富江町に立ち寄ったことは一度もありませんでした。
経済としては福江に次ぐ2番目の町で発展しているものの、
教会や海水浴場などの観光資源はないと感じていたからです。

しかしながらその後、富江のことを知れば知るほど、
魅力的なまちだと感じるようになりました。
特に魅力的だと感じたのが珊瑚の歴史です。

新田次郎が書いた「珊瑚」という小説に、
珊瑚漁で栄えていたころの富江が描かれているのでぜひ読んでみてください。

その小説を読んだときに、珊瑚は海のロマンだなと感じました。
命をかけて海の底に眠る美しい珊瑚を探しに行く男たちの物語。
現在、富江で珊瑚はとれなくなったものの、
珊瑚を加工して販売する珊瑚屋さんや珊瑚の博物館があります。
富江には、人生を賭けて船出していたロマンの名残が
そこはかとなく漂っているように感じました。

現在の富江のまち並み。さんごさんから歩いて1分の商店街。

さらに2分歩くと港が。

現在も珊瑚屋さんがあります。

そのロマンを「本」に重ねました。
たくさんの本の海の中から、美しく輝く座右の書に出会う。
そんな場所になればという思いを込めて、
さんごをモチーフにした「さんごさん」という名前をつけました。
加えて、地元の人に愛される場所になってほしいと考えて、
さん付けして擬人化してます。
「今日さんごさん、寄ってかない?」
そんな存在になりたいです。

さんごさんのロゴは、広告会社でアートディレクターを務める大来がつくりました。
「さんごさん」という文字は、
つい「さんごさん」と呼びかけたくなるような、どこか懐かしさを感じるものを意識して。
みんなに覚えてほしいという想いが強すぎて、書体が限りなく太くなりました。
ロゴマークは、横長のフォルムが特徴的な建物の外観をモチーフにしています。
本が集まってその建物ができている、という風にも見えるロゴマークです。
富江の珊瑚をモチーフにした赤と海の水色が、さんごさんの色になりました。

完成までの1年間

初めて物件を見に来たのが、2015年の5月。
8月に能作事務所のみなさんと五島へ行き、
図書館にしようという方針が決まります。
12月には建築のおおまかな計画ができあがり、
2016年の5月から工事が開始。
クラウドファンディングなどにも挑戦しながら、
(そのことについてはまた別の機会にご紹介するとして)8月に完成……。
その後「図書館長」を探し、運営のことも考えながら、
およそ1年間とちょっとでここまできたさんごさんですが、
そのあいだのドラマは、有川さんや能作さん、
それから初代館長の大島健太さんに語っていただきたいと思います。

それではみなさんに、バトンをお渡しします。

information

map

さんごさん

住所:長崎県五島市富江町富江280-4

サイト:http://sangosan.net/

facebook:http://www.facebook.com/sangosan/

Instagram:http://www.instagram.com/353sangosan/

twitter:http://twitter.com/353sangosan

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