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赤いカバのお店

マチスタ・ラプソディー
vol.026

posted:2012.8.28   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

「どがんかなろうが、まあ心配すなや」

梅雨に入ったあたりからあんまりいいことがない。
梅雨明けの後はいろんなことがさらに悪くなる一方で、
期待していたお盆明け、そろそろ災厄も過ぎ去ったかと思って
おそるおそる傘をはずして見上げてみたら、瞬間、
バケツをひっくり返したような大量の水を頭から浴びてしまった。
まさにふんだりけったりの2012年の夏は、
8月の終わりが見えてきたいまも快方に向かう兆しが見えない。
この強烈な呪いをぼくだけに留めるべく、愚痴めいたことは書かないと決めた。
ところが、だ。いったんそう決めたら、
しばらく週イチのペースで進めてきたこの『マチスタ・ラプソディー』が
まったく書けなくなった。
そんなわけで、マチスタがクローズドになったと思われても
おかしくないほどの期間を空けてしまった次第。
いろんな方に心配してもらったり、人によってはご迷惑をかけたかと思う。
ほんと、すいませんでした。

ところで、何年か前、地元で神主をやっている叔父から、
「おまえはあの世で絶対幸せになれる」と言われたことがある。
叔父が伝えたいことはわからないではなかったけど、
当然といえば当然、嬉しくもなんともなかった。
許されるのであれば、いま、この世で幸せになりたい。それがすべての根底にある。

先日、ふと思い立って、Aの墓参りに行った。
Aとは十代の頃からの付き合いで、
お互い上京してからも唯一頻繁に東京で会う同郷の友人、大切な親友だった。
なのに、一度もAの墓に行ったことがなかった。
Aの死を知らされたのは、2006年の12月、
撮影の仕事でポーランドにいるときだった。
共通の友人からの電話で、交通事故で死んだとだけ教えられた。
冬の東欧で聞くニュースとしてはあまりに現実感に乏しかった。
帰国したからといってリアルになるわけではなかった。
それから今日の今日まで、墓参りに行こうと思ったことは一度もなかった。
現にAの墓がどこにあるのかもまったく知らなかったのだ。

Aの墓は瀬戸内海を見下ろす山の上の、こぢんまりとした霊園にあった。
お盆も明けた平日の午後、夏の太陽が容赦なく降り注いでいるとあって
人っ子ひとりいなかった。墓はすぐに見つかった。
小さいけど新しくて綺麗な墓だった。
Aの父親も眠るその墓はA自身が生前に建てたものに違いなかった。
つまりすべてお膳立てした後にAは死んだのだ。
ひしゃくで墓に水をかけながら、つくづくと、
本当に心の底からスゴいヤツだと思った。高校時代から感じていたのだ。
こいつには到底かなわないと。
同じ世代でそそう感じたのは、50年近い人生で後にも先にもAひとりである。
そんな男がぼくの人生の大半、すぐ近くにいてくれた。
それだけでぼくはAに感謝するべきなのだろう。
目の前にある墓を見てそう思った。
帰りの車中、この6年で初めてだと思う、こと細かにAのことを思い出した。
車高を低くした車でバカみたいな運転をして笑い転げていたこととか、
一緒に行ったソウルで泥酔したAがタクシーの運転手にしつこくからんだこととか。
思い出が次から次へと蘇った。
Aはいまのぼくの状況を知ったらどう言うだろうか。
たぶん、「アホじゃのお」と言って笑うだろう。
でも、最後は「どがんかなろうが、まあ心配すなや」、
十中八九、そんなやりとりになったはずだ。
涼しくなったら、もう一度ぼくはAの墓に行こうと思っている。

これもまたふと思い立って、マチスタの内装に手を入れてみることにした。
その第一弾が「バルセロナの暴れ馬」こと、シマムラヒロシの作品の展示である。
この作品はもともとアジアンビーハイブのオフィスに飾っていたもので、
存在感だけなら、同じくオフィスにある森山大道の写真にもひけをとらない。
なにせ、作品がデカい。それに、カバが赤い。
シマムラヒロシは大阪の専門学校を卒業後、ヨーロッパに渡り、
スペインのバルセロナで10年以上に渡って活動してきた。
5年前に広島県三原市に拠点を移した後も作風は変わらない。
キャンバスに描いた絵の上に、
合板をカットして作った動物やキャラクターを重ねていくのが彼のやり方。
世界でもっとも予約がとれない店として知られるスペインの「エル・ブリ」が、
彼の描いたフレンチブルドックの絵を飾っていたという噂もある。
「エル・ブリ」に次いで2店舗目となるのが岡山の「マチスタ・コーヒー」なんて、
なかなかシュールな話だ。ちなみに、この作品が映えるようにと、
展示の壁となる市松模様の板をコイケさんと白に塗り替えた。
おかげでお店の外からでもバッチリ目を引く。
これで、「ああ、あの壁が青い店ね」という認識から
「ああ、あの赤いカバの店ね」と変わるかもしれない。
赤いカバの店、たぶんそんな店は世界中探してもないんじゃないか?

当面、マチスタはこの赤いカバが目印です。そういえば、お菓子メーカーのカバヤは岡山の企業だったような。なんか連携を探ってみますか?

夏限定マチスタスペシャル第2弾の「杏仁豆乳シェイク・ジャスミン茶ゼリー入り」がようやく登場! ポップのデザインは久々にぼくが手がけました。中華的な。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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