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マチスタの逆襲

マチスタ・ラプソディー
vol.024

posted:2012.7.19   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

コーヒー屋によくある光景。

まるで挨拶ごとのように、会話の冒頭でマチスタの経営状態を
たずねられるのが常となっている。
「やあ、元気?」みたいな感じで「マチスタはどう?」と。
ぼくも「まあまあだよ」くらいでやり過ごせばいいんだけど、
「あんまりよくないね」なんて正直に答えるものだから、
相手はさてどうしたものかとその場で考えを巡らせて改善策めいたものをひねり出し、
ぼくはといえば、明らかに疑問符がつくような類いのものであっても
「今度試してみるよ」と社交辞令的に適当な返事をして、
相手には一抹の申し訳なさを感じるということがよくあるのだった。
つい最近のトーマスとのやりとりもそんな感じだった。
トーマスはこの春から京都の中学校に単身赴任しているアメリカ人の友人で、
先週も3連休を使って岡山に帰省していた。
「そうか、それは問題だな」
そう言うとトーマス、しばし真剣な様子で考え込んだ。
場所はマチスタの近くの小さなバー。
彼の目の前には、「オー、メン! こんなに美味いジントニックは初めてだぜ!」
と言いながら、ものの30秒で飲み干してしまった空のグラスがあった。
「そうだ、こんなのはどう?」
トーマスが切り出した改善策は、それまでぼくが聞いたアイデアの中でも、
なんと言ったらいいか、ストレートに言うと最高にくだらなかった。
「日本のコーヒーは熱いんだよ。歩きながら飲もうとしたらヤケドしちゃう。
そんなことない?」
「……だから?」
「ぬるいコーヒーを出すんだよ。めちゃめちゃぬるいコーヒー、どう? 
絶対ウケると思うな」
「…………」
「ところで、コールド・コーヒーがあるのは日本だけだよね? 
ほかの国では見たことがないな。それって面白くない?」
「たいして面白いと思えないね」
「そうか………ここのジントニックはホント美味いな、次は何をたのもうかな」
先に改善策を提示してくれた相手に対して「一抹の申し訳なさを感じる」と書いたが、
トーマスの場合は申し訳なさを感じなかった例として挙げさせてもらった。
まあ、そんなこともある。

ここのところ毎回登場している冊子の仕事、「富士ヨット学生服」を製造・販売している
明石被服興業(倉敷市児島)の80周年記念誌の制作がようやく手を離れた。
先週末に最後の30数ページを校了し、
昨日(7月18日)、冊子を納めるブックケースのデザインを入稿した。
企画を考え始めてからほぼ1年、取材・撮影を始めてからも8か月かかった。
5月の連休が明けて以降、ずっと続いていた深夜帰宅もやっとこれで終わり。
久々に電車通勤してみたら、ついこの前田植えをやっていた田んぼが一面青々として、
車窓からの眺めは完全に夏のそれに変わっていた。

いわずもがな、岡山の夏は暑い。
東京と比べると太陽が近くて、じりじりと肌を焦がすような感覚。
コントラストがはっきりした雲や、迫ってくるような山の緑もあいまって、
夏が獰猛な感じなのだ。でも、東京の夏のような不快感はほとんどなく、
ストレートの直球でどんどん押してくる剛胆な感じは
むしろ好ましくさえある(まあ、しんどいのはしんどいんだけれど)。
そんな岡山の夏、マチスタでは新メニューのコーヒースカッシュとゆず茶シェイクが
ともにスマッシュヒットを飛ばしている。
「ここ何日か、コーヒースカッシュとゆず茶シェイク、
それにアイスコーヒーばっかり作ってるんです」
梅雨明け宣言があった翌日、のーちゃんがいつもの笑顔でそう言った。
アイスコーヒーをドリップで淹れているとはいうものの、
ホットコーヒーのオーダーがあまりに少ないので、
ハンドドリップで淹れる機会が激減しているらしい。
「『コーヒー屋なのにね』とコイケさんと話しているんです」
なるほど。店に入ったらまずコーヒーの良い匂いがして、
それから店主がポットを手にゆっくりとドリップにお湯をたらしている姿が目にとまる。
コーヒー屋さんというとまさしくそんなイメージで、
マチスタも開店以来そんな光景が常であったはず。
(それが夏の間様変わりするのは仕方ないんだろうか……)
さらに深いところへと思いを巡らせる。
(うすうす思っていたけど、夏にアイスを売ろうというのは安直すぎないやしないか? 
むしろ、「夏にあえてホットで」、それぐらいとんがったほうが
マチスタらしいのでは?)
そこまで考えたところで、5月にやった「モーニング•ブレンド」に次ぐ
第二弾のキャンペーンの構想へと結びついた。
夏にホットコーヒー、うん、悪くない。
早速、この週末にもコイケさんたちと相談して構想を固めてからビラ作りだ。
ビラを作るとなったら、俄然テンションも高くなってきた。
『マチスタの逆襲』のシナリオはきっとここから始まるのだ!

JR瀬戸大橋線の車窓から。茶屋町(倉敷市)あたりの田園風景がまこと美しいです。通勤途中、電車の窓からの眺めが見飽きないのも田舎のいいところ。

ヒトミちゃんがデザインしたコーヒースカッシュのポップ。喫茶店の軒先にある「氷」の旗の配色をなにげに基調色としています。夏らしくてナイスね。

夏限定のマチスタスペシャル、ゆず茶シェイク。キツい岡山の夏にはまさにぴったりです。この夏、岡山でブームになったりしないかなあ。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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