colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

コイケさんのコーヒー教室

マチスタ・ラプソディー
vol.020

posted:2012.6.20   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

秋からのコーヒー教室実現に向けて。

コイケさんを形容詞ひと言で表しなさい、という設問があったとする。
「優しい人」という人もいれば、「まめな人」という人もいるだろう。
「話しやすい人」という人いれば、反対に「話しにくい」という人もいるかもしれない。
印象という話なので、当然、十人十色なわけだが、
いろんなことに精通していてその分いろんな顔をもっている人だけに、
印象は本当にバラバラだと思う。
ぼくがコイケさんをひと言で形容するなら、「お洒落な人」だ。
「ファッションに無頓着だけど雰囲気がお洒落」といったような、
よくあるタイプのおしゃれさんとはちょっとが違う。
むしろまったくその逆で、ファッションのことはよく知っているし、
ブランドものも嫌いじゃない
(コムデギャルソンらしきシャツをよく着ていると思います、推測だけど)。
かといって、ただブランドを着こなしているだけの薄っぺらなお洒落でもけっしてない。
セットアップのセンスのよさなのか、
なにを身につけても必ずコイケさんなりの消化があって、
オリジナルな雰囲気に着地させる。
そして、コンサバに落ち着くことなく、結構な冒険もいとわない。
結局、コイケさんという人は、いろんなことを楽しんでいる人なのだ。
そんなコイケさんの生き方も含めて、「お洒落な人」なのである。

その朝、見かけたコイケさんは、これまで見たなかでも一番イカしていた。
コーヒー教室が開かれる日曜日のその朝、
ぼくはちょっと早めにマチスタに来て、
5月で閉店してしまったお隣の「柳川いちば」の写真を撮っていた。
と、通りの向こうからすごいスピードでやってくる1台の自転車に目が釘付けになった。
目を奪われたのは自転車の速度ではなく、変なカタチをしたその男の頭。
でもなくって帽子……テンガロンハットだった。
8年前にテキサス州フォートワースのショップで
「日本人には無理!」の烙印をぼくに押さしめたあのテンガロンハットをかぶり、
岡山のまちなかを颯爽と自転車に乗っている男こそ、コイケさんなのだった。
ぼくは手にもっていたカメラのレンズを向けるのさえ忘れ、
コイケさんのテンガロンハット姿にただただ見とれていた。

コーヒー教室の話が最初に出たとき、コイケさんの態度は積極的とは言いがたかった。
「正解がない世界ですからね、コーヒーって結局その人の好みなんです」
と笑顔で言うコイケさんを、なかばぼくが口説いたカタチで
日曜日のコーヒー教室とあいなった。
といっても、その日は知り合いに声をかけて参加者を集めたプロトタイプのコーヒー教室。
もしもそこである程度の反応を得ることができれば、
秋からの開催を現実的に考えようということになっていた。
集まってくれたのは、アジアンビーハイブのコーヒー担当になりつつあるニシちゃん、
ビッグジョンのNクン、駅東創庫で出張マチスタを手伝ってくれたマドちゃん、
それに大手コーヒーチェーンで働いているUさんの計4名。
「まずは淹れてみてください、はいどうぞ」
コイケさんが言うと、4人が顔を見合わせた。あまりにも唐突な展開。
レクチャーも何もないまま、まずはどうやって家で淹れているか見せてください、と。
でも、戸惑いを見せたのは一瞬だけで、
そこは唯一の男性の参加者、Nクンが「じゃあぼくが」と進んで厨房に入った。
計って小分けにしておいた豆をミルで曳くところからスタートである。
ドリッパーにペーパーを敷き、そこに粉状にした豆を入れる。みんなの視線が注がれるなか、
Nクンはコンロにかかっているポットを使って粉の上に少量お湯を垂らした。
そのまま注ぎ続けるのではなく、つかの間放置して蒸らしの時間をとるあたり、
Nクンも初心者ではないようだ。
Nクンは一定の分量の注ぎで粉の上にお湯を注ぎ始めた。
出来上がったコーヒーは、すぐにコイケさんも含め、みんなで試飲した。
こうして4人全員がコーヒーを淹れ試飲した後、ついにコイケさんが登場。
「じゃあ、次はぼくが淹れてみましょう」
みんながメモとペンを手に、厨房にずいと近づいた。
それまでずっと笑顔で見ていただけのコイケさんが、そこで俄然講師らしくなった。
「粉は中央をスプーンで凹ませ土手を作ります。そこにお湯を注ぐわけですが、
お湯の温度はマチスタでは82℃で淹れています」
さすがはコイケさん、手際がまったく違う。
しかも、飛び交う質問にテキパキと答え、その答えに無駄がない。
ぼくも4人の淹れたコーヒーを飲ませてもらったのだが、それぞれみんな味が違う。
コイケさんの淹れたコーヒーは、当然かもしれないけど、
やはりバランスがピカイチだった。
しっかりとした味のなかに苦みと酸味がうまく釣り合っている。
「お湯の温度が3℃違うと、味も全然違ってきます。
でも、何度が正解というわけじゃないんです。
その人が美味しいと思う味はいろいろです」
その後、同じ豆を使用して、焙煎の度合いを変えた3種の豆を試飲した。
参加者の4人は夢中でコイケさんの淹れる様子を見、メモをとり、
携帯で写真を撮り、質問し、そして次から次へと淹れたてのコーヒーを飲んだ。
正午までの2時間があっという間だった。

参加した4人はみんなとても喜んでくれたようだ。
なにより、傍観者としてときに写真を撮り、
ときに洗い物をしていたぼくが楽しかった。
マチスタを始めてからつくづく思うんだけど、
コーヒーというのは本当に奥が深くて面白い。
ぼくが感じたその面白さを、今回の4人は少なからずわかってくれていた人で、
コーヒー教室という場であらためて実感してくれたんじゃないかと思う。
秋からのコーヒー教室、ぼくはなんとか実現したいと思っている。

カウンターをはさんでコイケさんと受講者の4人。コイケさんはゼミの教授のようでした。そういえば、このシャツのデザインも実にユニークです。

最後にまたひとりずつコーヒーを淹れてクラスは終了。コーヒー教室と化したマチスタにはいつも以上にコーヒーの香りがたちこめていました。

Shop Information

map

マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ