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マチスタ・ブルー

マチスタ・ラプソディー
vol.006

posted:2012.3.14   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

開店まであと 19日——————

クリント・イーストウッドが監督・主演した映画に『アウトロー』という作品がある。
南北戦争の終結後、
おたずね者になった南軍の生き残りジョジー・ウェルズの復讐を描いた映画なんだけど、
展開がちょっと変わっている。
イーストウッドが演じるこの無口で孤独なヒーローに、
彼の意思とは関係なく、旅のお供がひとり、またひとりと増えていくのだ。
どことなくうさん臭いネイティブアメリカンの老人や、
英語をまったく話さないネイティブアメリカンの娘、
プライドの高い南部の母娘、それに野良犬も一匹
(いつも馬上から噛みタバコの唾をひっかけられているのにウェルズを慕っている)。
こうやって集団が膨れ上がり、
映画の終盤では小さな村のようなものまで作ってしまう。
そんな展開に、主人公は「なんだかなあ」「しょうがないなあ」みたいな感じで、
でもしっかり流れには組み込まれているという。
この映画、大好きなクリント・イーストウッド作品のなかでもベスト3に入る一本。
おすすめです。

「前から気になってたんですよ、あの店」
いろんな人からそう言われた。
いわずもがな、旧マチスタ(街なかstudy room)のことである。
ぼくはそのコメントにマチスタ再生のヒントがあると思っていた。
つまり、彼らは気になっていたものの入ったことがない。
気になっていたのになぜ入らなかったのか————入りにくかったのだ!
では、彼らを入りにくくさせていた要因とはなにかと考えを巡らせ、
ぼくはふたつの結論を導きだした。
ひとつは、コイケさんのアクだ。
ものすごく強いアクをもっているわけじゃないし、
逆にミーハーなところも多々ある。
でも、前回お見せした豆の袋に描かれたイラストのように、
一般的ではない趣味志向も多少お持ちで、
それが店内にちらちらと垣間見えた。
もちろん、そこに惹かれているファンも岡山には大勢いた。
したがって、そのあたりのバランスをとりながら、
コイケさんのアクを若干薄めるのがぼくの役目だと認識している。
そして入りにくい要因のもうひとつが、店の暗さだ。
昼も夜もとにかく暗い。
店のなかをのぞきこむようにして見ないと、
営業しているのかどうかわからないのだ。
その解決策として、照明を増やすだけでなく、
通りから一番よく見える店内の壁を真っ白にするイメージを描いていた。

2月末で旧マチスタの営業は終わった。
翌3月1日、コイケさんが我が社アジアンビーハイブの社員となると同時に、
リニューアルの準備がスタートした。
この連載で何度も触れているように、なにをやるにも資金は乏しい。
というか、ない。
なので、内装はすべて自分たちがやる。
そして「自分たち」のたぶん9割ぐらいがコイケさんだ。
時間的な意味ではなく、技量的な意味で。
そんなこんなで、内装に関して強く押すなんてことはとてもできないという背景のもとに、
件の壁の塗装の話になった。
「やっぱり白で行きましょう。外から見たときにグンと明るく見えると思うんですよね」
「そうですね」
 コイケさんは以前から壁を白くする案に賛成してくれていた。
「天井はどうします?」
コイケさんは、旧マチスタのオープンに際して
4年前にコイケさん自身が塗った白い天井を指している。
「ん? 天井はそのままで……」とぼく。
「でも、壁の白と天井の白が絶対変わってきますよ。同じにはなりません」
「はあ……同じじゃなくても」
「天井も同じように塗らなきゃいけないでしょうね。おかしいです」
こういうことをいつもの笑顔で言うのがコイケさんという人だ。
実は我が社アジアンビーハイブのオフィスを作ったとき、
イヤというほどペンキを塗っている。
ぼくも天井のペンキ塗りがいかに大変かは身をもって知っているのだ。
「はあ……そうですか」
そこでぼくの悪いクセが出た。すぐ面倒臭くなってしまうのだ。
「じゃあ、ほかの色でいきますか。こうなったらもう青とか」
青とか、と言ってる時点でもうどうでもよくなっている。
でも、どうでもいいと思って口にした青にコイケさんが食いついた。
「実はぼく、青が好きなんですよ」
いつもの笑顔がさらに輝いている。
コイケさんはロッカー代わりにしている棚からカラーテープをもってきてぼくに見せた。
「こんな感じの青です」
「それまた青いですねえ。ええ、いいんじゃないですか」
こうしてマチスタ再生計画の重要な柱であったはずの「白い壁」は
青い壁に変更となり、実際青に塗ってみると、
マチスタ再生計画では「薄めなきゃいけない」としていたコイケさんのアクが
さらに強くなっていることに気づいたのだった。
まあ、青もいいけどね。

ところで、冒頭の映画『アウトロー』の話は、
当然そこにつながる話を書こうと思って書いたんだけど、
次回に書くことにします。
ただの映画紹介になってしまって失礼!

なかよくペンキの色を作っている図。ライトをもっているのがヒトミちゃん、その下はアジアンビーハイブに大阪から研修で来ていたミヨさん。

一番左が著者の私です。青いペンキが付着してもいいように青いパーカーを着てくるあたりの周到さがビジネスの展開にも欲しいところ。

「ああ、あの青い店ね」と言われそうなほど青い壁です。コーヒーの豆を曳いてくれているのは、岡山の伝説の名店「カーネス」のスタッフだったタカちゃん。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

※4月オープン予定

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