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マチスタ・コーヒーのはじまり

マチスタ・ラプソディー
vol.002

posted:2012.2.15   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

開店まであと 47日——————

「大丈夫か、うちの会社?」で終わった前回の連載。
こんなことを自問するからには、あんまり大丈夫じゃない。
2月7日現在、当社のメインバンクの口座残高、記録更新だ——————862円。
昨日までしばらく5万円台だったけど、明日撮影があるので
なけなしの5万円を下ろしてしまった。
個人のほうはある意味もっとひどい。
誓って言うけど、48歳にしてぼくの貯金は500円玉貯金が唯一である。
コイケさんに「この店、ぼくがやりましょうか」と言ったとき、
頭のすみっこでこの500円玉貯金のことを考えていたのだが、
それ自体がもうダメなような気がする。そう、もうなんか全然ダメなのである。
「またやっちゃったか、オレ……」
正直、あの夜から軽く落ちた。
コイケさんの店「街なかstudy room」の経営を
ぼくが引き継ぐと口にしてしまったあの夜からである。
なんとか浮上のきっかけを求めてカフェや喫茶店の本を読み始めた。
下北沢の人気カフェの店主が書いた本とか焙煎の本とか、
喫茶店の経営本とか(タイトルは『いざ、開業!』だったな)。
その手の本を読み進めるうちに、不思議となんとかなるような気がしてきた。
そして読み終わる頃にはなんとかなるどころか、
結構成功するような気がしてきたのだった。
「少なくとも、負ける気がしないんですよね」
ぼくがそう言うとコイケさん、
「商売を始める人って、みんな最初はそう言うんです」
見事な袈裟切りをくらったのだった。

やると決めたからには、開店までにやらなきゃいけないことをやるまでだ。
まずは東京で経理の面倒みてもらっている税理士のシマヅさんに電話で報告し、
コイケさんをどのようなカタチで雇用するかを相談した。
結果、当社アジアンビーハイブの社員とすることになった。
これに一番反応したのは社員1号のヒトミちゃんだ。
「えーっ! 私の初めての後輩がコイケさん……」
「そう、会社の平均年齢が一気に上がっちゃうね」
コイケさんは人に雇われるのが初めてらしく、
なにやらそれを楽しんでいるような気配がうかがえる。
ぼくが店を引き継ぐと決まってからのコイケさんは、なにごとにつけ楽しそうである。
「お店の名前はどうしましょうか?」
コイケさんに聞いた。一番大事なところである。
一番大事なところなんだけど、コイケさんの軽いこと。
とても還暦を過ぎているとは思えない軽さで、
「この際、まったく新しい名前でいきましょう」
ここはぼくが文鎮にならなきゃダメなような気がした。
で、後日、店の名前はぼくが決めさせてもらった。
「せっかくなのでこれまでの呼び名を生かして『マチスタ』でいきたいと思います。
そのあとにコーヒーをつけて『マチスタ・コーヒー』で」
「いいんじゃないですか」
ニコニコ顔でコイケさんは言った。
お店に立つのはコイケさんなので、
ぼくは何を決めるのもコイケさんの意見を尊重したいと思っている。
でも、コイケさんはコイケさんでぼくの意見を尊重してくれる。
だからといってお互いが遠慮し合うのではなく、
言いたいことは言える空気がすでにぼくとコイケさんとの間にはあった。
関係としては悪くない。
これからいろんなことに、お互いが納得するラインを導きだすことができそうだった。
こうやって、週に2回ほど店に顔を出し、
年末にかけていろんなことを決めていった。
メニューのこと、お店のロゴや内装の雰囲気、内装にどれくらい手を入れるか、
リニューアルオープン日をいつにするかなどなど。
しかし、店の帳簿を見せてもらったときに思った。
いくらカッコいいロゴを作っても、内装をよく見せたとしてもダメなのだ。
なにかを劇的に変えないとこの店は失敗する。
それぐらいこれまでの赤字の幅は大きかった。
「テイクアウトをメインにして、朝の営業に力を入れようと思うんです」
これが店の経営を口にした最初からぼくの頭にあった作戦だった。
これまでの「街スタ」は午後からの営業だった。
それを朝からの営業にし、通勤途中のサラリーマンにテイクアウト用のコーヒーを提供する。
成功するにはこれしか考えられなかった。
でも、どうみても夜型のコイケさんに、朝型にシフトしてもらうことができるんだろうか?
「大丈夫ですよ」
こうして店の骨格の部分が決まった。
朝からやってるまちのコーヒースタンド。これが「マチスタ・コーヒー」だ。
オープンは年度の始めということで4月2日の月曜日に決まった。
開店まであと1か月半。
(つづく)

コイケさんの淹れるコーヒーは美味しい。岡山にはコイケさんのファンも多い。なのになぜこんな赤字に?

店の周辺は繁華街なのだが、郵便局やNTTがあるなど、岡山有数のビジネス街でもある。場所はけっして悪くない。

テイクアウト用のペーパーカップ案。若干レトロがかかったロゴ(仮)はコイケさんのリクエストをもとにデザインした。

Shop Information

map

街なか study room

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 12:00 ~ 23:30

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