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連載

金岡新聞 号外

全国手書き新聞
vol.号外

posted:2012.3.28   from:和歌山県和歌山市  genre:エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  アナログや手作りのものからにじみ出る、作者の人柄や特別感に魅了される人が増えています。
そんな人間味あふれる全国の手書き新聞やZINEをフューチャーし、発行人と制作の背景に迫ります。

editor’s profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。

写真とムービー

五十嵐隆裕

金岡くんと和歌山を歩く。

金岡陸くんに会ってきた。
和歌山市内の金岡くんのご自宅におじゃまし、金岡くんの帰りを待つ。
午後4時。ランドセルに大きな巾着袋をぶらさげて現れた金岡くんは、
目深にかぶっていた黄色い帽子を取って、
「こんにちは!!」と大きな声で挨拶し、顔をくしゃっとさせ笑った。
溌剌としたなんとも気持ちが良い挨拶に、こちらも自然と顔がほころぶ。
そんな学校帰りの金岡くんと、夕暮れの和歌山市を一緒に散策。
地域を案内してもらった。

小学4年生の金岡くんと、金岡新聞編集長の金岡くん。

金岡陸くんは小学4年生ながら、趣味の範疇を越えた“ライフワーク”を持っている。
それが『金岡新聞』だ。
金岡新聞は、金岡くんが小学2年生の冬に創刊。
同級生が折り紙に小さな小さな“新聞”を書いているのを見て、
「ええなぁ」と思ったのがきっかけだった。
新聞は同級生に広まり、そのうち同級生の父兄へ。
そして近所の人にも瞬く間に広まった。
創刊からしばらくは不定期で続けていた。
毎日書くこともあれば、10日に一度くらいの時も。
だが、そのうち、
「しばらく金岡くんの新聞を見ないと、金岡くんどうしたのかな?って心配になる」
という読者の声があり、一週間に一回の定期発行となった。

金岡新聞記念すべき第一号は、わら半紙にえんぴつ書き。

金岡新聞の面白いところは、
同級生の誕生日や、庭の野菜が実をつけたことなど、
金岡くんのごく身近で起きたことがトップの扱いになったり、
かと思えば取材記事や、季節の行事、
社会情勢についてちょっと背伸びをした記事を書いたりと、
生活のネタと時事ネタをうまく組み合わせて一枚の新聞にまとめているところ。
つまり、金岡くんを知る人・知らない人、誰が読んでも面白い。
ちゃんと読者を意識した記事を金岡くんは書けるのだ。
新聞のネタは自分で探すこともあれば、
最近では、学校の友達や友達のお母さんが
「金岡くん、ここ取材して!」と勧めてくれるのだそうだ。
取材は主に土日に行き、翌月曜日にいっきに書きおこす。
電話で取材先にアポイントをとるところから、
取材・発行・配送までひとりでやるというから、その行動力に驚く。

金岡くんのお母さんは、いわゆる“校正さん”で、金岡新聞の最初の読者。
できあがった新聞に軽く目を通し、漢字ミスなどを指摘するのだという。
スペースの関係でたまに3コマになってしまう、自由すぎる“4コマ漫画”に
「えーっ!こんなんはずかしいわぁ」と苦笑いしながらも、
決して書き直しはさせない。
小学生の金岡くんの今の感性、今の視点で構成されている金岡新聞。
そのできあがりをお母さんは誰よりも楽しみにしているようだ。
終始人懐っこいビッグ・スマイルを見せ、
ハキハキと受け答えをしてくれる金岡くんだが、
金岡くんのお母さんいわく、普段は人前でとても緊張するのだとか。
「それに、よくおちょける(ふざける)し、
同級生よりも子どもっぽいところがあるかもしれませんね」
しかし当の本人は、
「取材をしているときは緊張しないです。
“金岡くんいつも読んでるよ”“楽しみにしてるよ”って
みんなから新聞の感想を言ってもらえると、やっぱりうれしいなぁって思います。
それで記者を続けられました」と話す。
そんな金岡くんの言葉を受けて
「男女年齢関係なく人が好きなんでしょうね。
自分が“会いたい”、“取材したい”と思った人に会って
おしゃべりができるのが本当に楽しいのでしょう」
とお母さんは柔らかい口調で語る。

「ずっと新聞記者を続けたい」けど「JAXAの職員にもなりたい」と言う金岡くん。
この春からは高学年になり授業数も増える上に、
将来の夢を叶えるために、英会話スクールなどにも通う忙しい毎日を送っているが、
どうか永く永く金岡新聞を続けてもらいたい。(と思うのはオトナの勝手かな?)

金岡くんの仕事場・仕事道具拝見。

2011年の5月から書き始めた取材ノート。あらかじめ質問内容を書いて、それに対する回答を書き留めている。

幼稚園から使っている辞書には付箋がびっしり。金岡くんの知の集積だ。

漢字や言葉などがわからなかったら、まずは簡単な辞書をひく。それでもわからなかったら次に難しい辞書をひく。最後にインターネットで調べるそうだ。

A4用紙を目の前にえんぴつを握ると、口を真一文に結び笑顔が消えた。快活な小学生から、新聞記者の顔へと変わる瞬間。

金岡くんの作業机は龍神村(現・和歌山県田辺市)の杉の一枚板でオーダーメイド品。お父さんからの小学校入学祝いで、まさに一生もの。

profile

RIKU KANAOKA
金岡 陸

金岡新聞記者・編集長。2001年生まれの10歳。和歌山県在住。8歳の時に書き始めた「金岡新聞」は2012年3月に130号を迎え、東京・渋谷のフリーペーパー専門店「Only Free Paper」でも人気を博す。好きな遊びは「校庭でやるサッカー」

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