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連載

滋賀とスウェーデンの意外な関係。
東近江市〈ことうヘムスロイド村〉で紡ぐ、ものづくりのストーリー

ものづくりの現場
vol.028

posted:2017.3.30  from:滋賀県東近江市  genre:ものづくり / 活性化と創生

PR 滋賀県

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

credit

撮影:川瀬一絵(ゆかい)

ヘムスロイド=手工芸の村ができるまで

滋賀県の南東部にある東近江市は、
1市6町が合併した琵琶湖から鈴鹿山脈まで広がる自然豊かな地域。
その東近江市の誕生前、湖東町と呼ばれていた場所に、
全国的にも珍しい、ものづくりの作家が集まる村がある。
その村は、〈ことうヘムスロイド村〉と名前もちょっと変わっているのだが、
立ち上がりの経緯を東近江市湖東支所の山川 恒さんはこう説明する。

「旧湖東町は稲作が盛んなまちなのですが、
一方で梵鐘をつくる鋳物師や宮大工が多く、匠の郷として知られてきた場所です。
伝統を守りつつ、現代のものづくりも推進することを目的として、
平成3年に『工芸と交流の里構想』が策定され、
平成5年3月にヘムスロイド村が完成しました」

東近江市湖東支所の山川 恒さん。

ものづくりの拠点となるような場所をつくるにあたってモデルにしたのが、
スウェーデンのダーラナ地方。
“スウェーデン人の心のふるさと”といわれるこのエリアは、
手工芸など昔ながらの伝統や文化が色濃く残っており、
スウェーデン語で「手工芸」を意味する「ヘムスロイド」と冠した店が
多数存在するそう。こうして田んぼに囲まれた森のなかにできあがった、
ことうヘムスロイド村は、北欧風の建築で朱色の屋根がかわいらしい工房4棟と、
ルンド(人が集まる場所、という意味)と呼ばれるセンターハウスで構成されている。

ちなみにヘムスロイド村が完成して間もなく、
ダーラナ県にあるレトビック市と湖東町は、ともに手工芸が盛んであることや、
地理的に湖の東に位置することなどから姉妹都市提携を結び、現在も交流が続いている。

以上がヘムスロイド村の概要なのだが、
気になるのは、どんな作家がものづくりを行っているか。
現在入居している5組6名の作家の工房と、
カフェとなっているルンドにそれぞれお邪魔してみることにした。

愛犬とともに出勤し、音を気にせず制作に没頭

木工工房〈tanaka wooden works〉の田中智章さんは、
湖東町と同じく現在は東近江市になった、木工の盛んな永源寺町出身。
ヘムスロイド村に入居したのは2015年9月で、
それ以前は東近江市杠葉尾町で制作活動を行っていた。

〈tanaka wooden works〉の田中智章さん。工房には機材も木材も数多く置かれているがどれも整理整頓されていた。田中さんはいつもお気に入りの音楽をレコードで流しながら作業に励む。

「ヘムスロイド村のことは前から知っていて、
どうすれば入居できるんだろうってずっと憧れていたんです」

何よりも憧れたのは、その制作環境。
「ここに来る前はごく普通の集落のなかにある、
住居の隣の小屋を工房にしていたので、大きな音をたてると気兼ねしてしまうし、
残業ができなかったんです。何回か工房を引っ越したのですが、
そのたびにここの存在がちらついていました」

田中さんの前に入っていた木工作家が退去することになり、
知り合いの大工さんからいらない機械を引き取らないかと言われ、
待ってましたとばかりに応募。
広々としたこの工房には木工作家が代々入居していたこともあり、
使い勝手のよさを感じている。

「広くて天井も高いので、大きな家具をつくるときもまったく苦になりません」と田中さん。

きれいな光が入るのでせっかくだからと、工房の一角に展示スペースを制作中。

車で片道30分の距離を、愛犬の縁(ユアン)も毎日出勤。
ヘムスロイド村に着いたらまず散歩をするのが日課だ。
「雷は怖がるんですけど、機械の音は落ち着くみたいで、
仕事中はずっと工房で寝てますね(笑)」

制作に没頭できるこの環境は、作家にとって理想的といえるだろう。

とても人懐っこい愛犬、縁(ユアン)と。

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ガラス作家の制作現場は?

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多彩なジャンルの作家が集うことで生まれる効果

「長くいるということは、居心地がいいんでしょうね」と笑う、
ガラス工房〈Azzurro(アズーロ)〉の東 敬恭さん。
最初の独立先としてここを選んで以来18年が経ったという、
2番目に古い“住民”だ。窯に火を入れたり、大きな音をたてたりするガラス工芸は、
木工作家の田中さんと同様、どこでもできる仕事ではない。
「メンバーの入れ替わりはありますが、
常にいろんなジャンルの作家がいるのがいいですよね。
ここがもしガラスの観光的な村だったら、入っていなかったと思います」

今年は20年ぶりくらいの大雪に見舞われたそうだが、雪のある風景はより北欧っぽく見える。ガラス作家・東 敬恭さんの工房。

新規に入居する作家を選考するのは、
ヘムスロイド村評議会という管理元と現在入居している作家たち。
制作ジャンルがなるべくかぶらないようにしているそうで、
そのことは彼ら自身にもいい影響を与えている。

「作品制作の場合は特にガラス以外の素材も使うので、
田中さんにお願いして木製の箱をつくってもらったり、
鉄作家の石倉 創さんと康夫さんに道具を借りたりすることもありますね」

東さんは隣の岐阜県出身だが、「滋賀は関西圏なので文化が違うかな」と思って移住を決めた。

自分でつくったガラスを溶かす窯。去年の夏は工房内が50度を超える暑さになったそう。

工程はとてもスピーディ。「ガラスづくりは棒をぐるぐる回したり、息を吹き込んだりして、パフォーマンス性があるところが気に入っています」

この辺りの気候は、冬に曇りがちなところが北欧と似ているのかもしれない、
と東さんは言う。

「北欧の人は、窓辺にガラスを置いて楽しんだりしますけど、
ガラスってそれほど天気がよくないほうが陰影もはっきりしすぎず、
表情豊かに見えたりするんです。ここにいると、色がより気になるようになりますね」

豊かな自然が作品を柔らかい雰囲気にしてくれる

陶芸工房〈utsuwa kobako〉の竹口 要さんのつくる器は、
陶器なのに一見すると金属質のような不思議な風合いをしている。
「昔から古いものが好きで、これはヨーロッパのアンティークに影響を受けています」

陶芸家・竹口 要さんの作品。

ギャラリーの奥を工房として使用している。

竹口さんの出身は、信楽焼で有名な旧信楽町の隣町、旧甲南町(現在はともに甲賀市)。
和雑貨メーカーなどで働いたあと、2004年に独立。
実家の敷地内に小さな工房と窯場をつくって制作していたが、
手狭だったので広いところをずっと探していて、ヘムスロイド村には2014年に入居した。

「ここに入ることができて一番よかったのは、間違いなく自然ですね。
ろくろから視線を外すだけで、窓越しにきれいな景色が見えるので安らぐんです。
ヘムスロイド村に来てからの新作は、柔らかいものが増えたと自分でも感じています」

「河原の石の佇まいが好きで、自分で石を陶芸でつくっちゃったんです」と竹口さん。ものによっては陶器の粒が入っていて、持って振ると鈴のように澄んだ音が鳴る。

経年変化が美しい竹口さんの作品。右は3年使用したマグカップ。

自然が好きな竹口さんは、工房の外の庭づくりにもこだわっている。

「来たときは雑草まみれだったのですが、自分で芝生を植えたり、
前にいた陶芸家が使っていた薪窯のレンガを再利用させてもらって、
石畳をつくったりしました」

周りにものづくりをする人がいる環境は刺激的だが、思わぬ悩みも。

「オーダーでつくってもらうことのよさを知ってしまったので、
物欲が出てしかたない(笑)。
そのためにまた頑張って働こうってモチベーションが上がる感じです」

乾燥を抑える室(むろ)の扉は、田中さんにつくってもらった。

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ものだけでなく“コト”をつくる人も

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もっと人が気軽に集まれるような場所に

ヘムスロイド村で唯一工房ではない、
ウエノチシンさん、ナルさんご夫婦の〈BASE FOR REST〉。
作家の仮眠室や会議室として年に数回しか使われていなかったルンドを改装して、
1階ではカフェを、2階ではチシンさんが整体やヨガ教室、
ナルさんが児童向けの英会話教室を行っている。

4棟ある工房はコンクリートブロック造平屋建てだが、ルンドのみコンクリートブロック造・木造2階建てになっている。

「僕らはものづくり作家ではないので、“コトづくり”をするという名目で入居しました。
ヘムスロイド村で唯一足りないのは、地域とのつながりだと思うんです。
だから一般の人がもう少し入りやすくなるように、カフェをつくりました」とチシンさん。

滋賀出身のウエノチシンさん(左)と、東京出身のナルさん(右)。

現在カフェは、イベントがあるときのみのオープンとなっているが、
森にイルミネーションをつけて、マルシェやライブを行う〈森夜市(しんやいち)〉や、
近隣のパン屋さんによるポップアップショップ、
衣食住を自分たちの手でつくるコミュニティー〈ノラノコ〉など、
バラエティに富んだイベントを月に数回開催している。

チシンさん自ら近所の製材屋さんを一軒一軒周り、商品にならない材木を集めてDIYした店の什器。地域の余剰資源をリユーズしコストを抑えた。

仲間を集って、端材をパズルのように組み合わせてできたカウンターテーブル兼ファサード。

ナルさんは、「今までは東さんのグラスや、竹口さんの食器を
カフェで使うくらいしか作家さんとのお仕事上のつながりはなかったのですが、
今年はヘムスロイド村内外の作家さんを集めた
ワークショップも開催しようと考えていて、
今後いろんなかたちで関わることができたらいいなと思っています。
子どもたちものびのびと安全に遊べる、公園と森の中間みたいなこんな場所は、
ヘムスロイド村のほかにはなかなかないと思うので、
より多くの方に知ってもらいたいですね」

念願の工房を持ち、内装も手づくりする楽しみ

日本画工房〈le ciel pluvieux(ル シエル プリュビュー)〉の西川礼華さんは、
2016年8月に入居した最も新しい“住民”。
制作活動と並行して、工房の内装もDIYでコツコツ進めている。

左はutsuwa kobakoの竹口さんの工房で、西川さんは右の出っ張ったところのみを使用している。広さは8畳ほどだが、創作活動に没頭するにはもってこい。

「フローリングの張り方は、田中さんに教えてもらいました。
端っこのほうはあまり見ないでくださいね(笑)」

日本画家の西川礼華さん。「ここにいると、日本画以外の知らない世界に触れることができるのがうれしいです」

日当たりのよい、明るい工房。

京都の大学を卒業して、米原の実家に戻ってきた西川さんは、
母校で非常勤講師をする傍ら、自宅の和室を工房代わりにして絵を描き続けてきた。

「ここのことは知っていたのですが、
初めて来たのは去年の〈ヘムスロイドの杜まつり〉(詳細は後述)のとき。
いろんな作家さんたちが、自分のやりたいことをかたちにしてお店を出されているのを見て、
こういう世界があるんだなと羨ましく思いながら、楽しませてもらいました」

そのとき、前にいた人が退去することを偶然知り、タイミングと縁のおかげで入居が決定。
工房に置かれている岩絵具に青系が多いことを指摘すると、こんな答えが返ってきた。

「生まれ育った土地の自然の色や空気感が、
学生のときに何気なく使っていた色や絵のなかに出ているなあって、
帰ってきて気がついたんです。地元の山々の日暮れ前の青さや、
琵琶湖を臨む霞みがかった空など、
自分の中に残る特別な色として青系を積極的に使ってしまうのかもしれません。
工房周辺にも美しい自然の色がたくさんあり、制作の糧になっています」

日本画で使う岩絵具。これを接着剤の役割を果たす膠液で溶き画面に定着させていく。

西川さんの作品。

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開村当時からずっと工房を構える人

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人に支えられてきた実感が、人を大事にする

〈鍛・FORGE・WORKS〉は、石倉 創さんと康夫さん兄弟による金属工房で、
ふたりは開村当初からここにいる、最古参。

「みんな出世しちゃって、僕らだけが残ってるんですよ(笑)」
と冗談めかして言うものの、数々の有名建築家と仕事をしたり、
海外でも作品が評価されるなど、すばらしい経歴の持ち主。

兄の石倉 創さん(左)と弟の康夫さん(右)。

おふたりが鉄作家となったきっかけは、
アレクサンダー・G・ウエガーというアーティストの本に影響を受けて、
彼に会うためにヒッピームーブメントが終焉を迎えつつあるアメリカへ渡ったこと。

「帰国後、ライフスタイルも含めて、
鉄でなら何かおもしろい仕事ができるんとちゃうか、と思って
京都で始めたのですが、どこで何を習ったわけでもないので、
最初は全然でしたね」(康夫さん)

熱した鉄を叩いて形をつくる鍛造機は、ドイツからわざわざ輸入したもの。

決められた場所に道具を置いていないと危険なため、きれいに整えられた工房。

その後、ヘムスロイド村の近くに工房を移したものの、集会所の隣にあったため、
何か行事があるたびに仕事ができなくなるような状態だった。
ヘムスロイド村で理想の制作環境を得たのも、
知識も技術もない状態から国内外で作品が認められるようになったのも、
人とのつながりのおかげだとふたりは口をそろえる。

「人に支えられてきた実感があるから、
人と人のつながりをものすごく大事にするんです。
今の若い作家さんたちはすごく勤勉だけど、ここでものをつくることだけが、
いわゆるものづくりではないと僕らは思うんやけどね」(創さん)

気さくだけど、ものづくりと作家としてのあり方には、とことん頑固。
こんな大先輩が身近にいるのも貴重な環境といえるだろう。

ギャラリーも兼ねた石倉さんの工房〈鍛・FORGE・WORKS〉。コークスの火花散る鍛鉄の様子とギャップを感じるほどの繊細なつくりの作品が多い。

手工芸の村が1年で一番盛り上がる日

ヘムスロイド村は基本的に自由に散策可能だが、
作家たちが工房に常にいるとは限らない。しかしいつもは静かなこの村が、
1年に1度盛り上がる特別な日がある。
毎年5月に、全国から作家が集まって屋外にブースを並べ、
作品の販売を行う〈ヘムスロイドの杜まつり〉だ。
今年は5月20日(土)、21日(日)に行われる。

写真提供:竹口 要さん

「当初はここの作家さんだけで行っていたのですが、どんどん広まって、
今は130ブースの枠に対して、200以上の申し込みがあるほどです」
と東近江市湖東支所の山川さん。
ヘムスロイド村の隣では、地域の人たちがバザーを開催し、
両日合わせて1万5,000人もの集客があるそう。
作家たちによるとこの季節は森も田畑も青々としていて
「1年で一番気持ちがいい」とのこと。
地域をあげて村が賑わう杜まつりに、ぜひ遊びに行ってみては。

標高350メートルの赤神山の中腹にあり、地元の人には「太郎坊」と呼ばれて親しまれている阿賀神社から望む、東近江のまち並み。

information

map

ヘムスロイド村

住所:滋賀県東近江市平柳町568

URL:http://www.koto-hems.com/

東 ユキヤス ガラス工房〈Azzurro〉

A棟

Tel&Fax:0749-45-0742

URL:http://www.azzurro.studio

竹口 要 〈-utsuwa kobako-〉

B棟

Tel:090-1909-0298

URL:utuwakobako.wix.com/knmt

西川礼華 〈le ciel pluvieux〉

B棟

Mail:kaya.0pec0.yaka@gmail.com

田中智章 〈tanakawoodenworks〉

C棟

Tel:090-9869-5778

URL:tanakawoodenworks.com

石倉 創・康夫 金属工房 〈鍛・FORGE・WORKS〉

D棟

Tel:0749-45-2526 / Fax:0749-45-1679

URL:http://tan-forge.com/

ウエノ チシン・ナル 〈BASE FOR REST〉

E棟

Tel:080-5779-8113

URL:http://www.behoma.org

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