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連載

真鶴にローカルベンチャーを!
〈西粟倉・森の学校〉
井上達哉さんと語る、真鶴の未来

真鶴半島イトナミ美術館
作品No.28

posted:2017.3.22  from:神奈川県足柄下郡真鶴町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

sponsored by 真鶴町

〈 この連載・企画は… 〉  神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

MOTOKO

「地域と写真」をテーマに、滋賀県、長崎県、香川県小豆島町など、日本各地での写真におけるまちづくりの活動を行う。フォトグラファーという職業を超え、真鶴半島イトナミ美術館のキュレーターとして町の魅力を発掘していく役割も担う。

“森好き”が考える「お林」のゆっくりとした過ごし方

神奈川県真鶴町に生まれる〈真鶴テックラボ〉は、
3Dプリンターやレーザーカッターなどのテクノロジーを使ったものづくり体験のほかに、
新たな事業を立ち上げたり、起業を目指す人への支援も進めていこうという施設だ。

同じように小さな自治体で、たくさんのローカルベンチャーの起業実績がある
岡山県英田郡西粟倉村。この村の事例を学ぶために、
〈西粟倉・森の学校〉代表取締役社長である井上達哉さんを招き、
西粟倉村の歴史と現状、森の活用、そして会社の事業内容や
インキュベーションについてのワークショップが、
真鶴テックラボを企画するスタッフにより開催された。

真鶴には、誇るべき「お林」がある。
“森大好き人間”を自負する井上さんにとっても、
初めて訪れた真鶴の森は魅力的に映ったようだ。

「400年以上守られてきた照葉樹林のお林。
あんなに壮大なクスノキの枝ぶりを真下から見ることはなかなかありません。
今日は感動を覚えています」

「お林」のクスノキを見上げる。

まずは森と社会を重ね合わせて、外部からの視点でお林のすばらしさを語ってくれた。

「お林も最初は人工林だったんですよね。
でも400年も経つとどんどん更新されて、もう天然林になっていると言ってもいい。
『松が枯れている』という話を聞きましたが、
寿命をまっとうする木があるから新しい木が育つので、枯れても構いません。
そういう更新されている森は、全体のバイオマス量は一定になります。
僕たちはつい1年や3年、10年という期間で判断してしまうけど、
森は100年単位で考えないといけません。
現実社会でも、目先の人口が減ったりしても、長い目で見れば一定に保たれている。
そういう“森”や“社会”が健全だと思います」

真鶴町の人たちとお林を見学した井上さん。

参加者から「お林をどう有効活用したらいいか」という質問があった。
西粟倉村は95%が森だが、森を間伐して生まれる間伐材を有効活用してきた。
真鶴のお林とはそもそものあり方が違う。だから井上さんの提案は「観光」だ。

「土を直接踏むと傷んでしまうので、ウッドデッキで遊歩道をつくれたらいいですね。
森の中で何かイベントをやってもいいけど、
常に行けるカフェなどがあると行きやすくなりそう。
夜はおいしい魚介とワインが飲めたり。観光化は難しい部分もありますが、
なるべくこのままの雰囲気で進んでいってほしいです。
大きく新しいことをやるよりも“このまま”を
しっかり守っていけばいいのではないでしょうか」

西粟倉にある体験型の事例には学ぶべきものがあると
紹介してくれたのは、ファシリテーターを務めたコロカルの及川卓也編集長だ。

「森の学校が発売している木の床材〈ユカハリタイル〉も、
商品自体を売りながら、床を貼るという体験を売っているとも言えます。
また、半完成品である〈ヒトテマキット〉も
最後に自分の手でスプーンを削って仕上げるという体験を与える。
いまコロカルで連載している『真鶴半島イトナミ美術館』でも、
アート体験に見立てながら、真鶴を紹介するという試みをしています。
だからお林も、いわゆる観光ではなく、体験をつくってあげることが重要ですよね」

真鶴周辺から10名程度の参加者が集まった。コロカルの及川卓也編集長(左)がファシリテーターを務めた。

そして周囲を大きな観光地に囲まれている真鶴としては、差別化という意味でも、
「暮らし」に紐づいたアイデアが求められているのかもしれない。

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真鶴と西粟倉の共通点は?

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真鶴『美の基準』と西粟倉『百年の森林構想』の共通点

真鶴には『美の基準』という条例があり、
現在の美しいまちなみを守ったと言われている。
西粟倉村にも『百年の森林(もり)構想』がある。
2008年に制定され、それまで50年間守ってきた森を
今後50年も同じく守っていこうというもの。

このふたつはともに指針であって、
守るべきルールや行動が厳格に定められているわけではない。
受け取り方は自由。

「いまではみんなに“ひゃくもり”と呼ばれて親しまれています。
『美の基準』も情緒的でいいですね。“ひゃくもり”と同様、
明確に掲げないということにも、いい部分がたくさんあるのではないでしょうか」

自分たちで考え行動することが必要になってくる。
西粟倉・森の学校が考える百年の森林構想の解釈は、
たくさん木を伐って流通させることではなく、
木を使って産業の裾野をどうやって広げていくか。
それに必要なもののひとつは「移住者」だという。

「自分たちにとっても、村にとっても、森にとっても、
移住者がちゃんと来て、定住して、木に関わる仕事をしてくれれば、
森づくりはもっと進むと思っています。
カピカピに乾いてしまった土地には、せっかく種が飛んできても育ちません。
だから僕たちは耕します」

こうして耕された土地に、種が集まってくる。
その種はみごとにローカルベンチャーとして芽が出る。
現在西粟倉村は人口の1割近く、150人程度が移住者だ。
人口自体は減っているが、世帯数は増え、子どもの数も増えている。
驚くことに、一時的にだが待機児童の問題まで発生したという。

真鶴にとっても、これからは地域での働き方が課題になってくる。
そのなかでローカルベンチャーの起業や育成は、
このイベントを主催した真鶴テックラボの柴山高幸さんにとっても
大きな興味があるところ。
真鶴でも少しずつ起業やお店をオープンする人が増えている。
真鶴テックラボとしても、この動きを支援し、加速させていきたい。

「毎年1社くらいは、新しい会社が立ち上がっています。
個人事業主もいれば、もう少し大きなビジネスを目指している人もいますが、
実はほとんどの人は自分がやりたいことをやっています。
“地域のために”とか“村民のために”とわざわざ口にする人は意外と少ないのです。
ただ、みんなすごく楽しそうにやっています。
彼らが西粟倉村でやっていることを外に発信していくと、
“おもしろそうな村だね”と思われて、それに影響されて
村の人たちも同じように“おもしろい”と思うようになっていきます。
きわめて自然発生的に、村が活性化していきます」

無理にではなく、ただ楽しそうに活動している姿を、外にも中にも示していくこと。
これからローカルベンチャーを呼び込みたい真鶴にとっても、
とてもシンプルだが参考になる話だ。

参加者からは「次々とローカルベンチャーが生まれる仕掛け」や
「誰がインキュベーターになっているのか」という質問があった。

「わざわざ村に来てくれた人には、ローカルベンチャーツアーをするんです。
“この人を紹介したら、もしかしたらいい化学反応が起きるのではないか”と思って。
そういうことをみんながそれぞれやっていて、村全体で育てようという意識があります」

住民が積極的に人を呼び込み、地域の財産を見学するだけでなく、人に会わせる。
イベントをきっかけとして真鶴を訪れた人たちにも、
おもしろい人物にどんどん会って可能性を広げてもらうといいのかもしれない。

「結局は、サービスとか商品よりも、人と人とのつながりだったりします。
常に気にかけてくれる人は何回も来てくれますね」

成功事例として語られることの多い西粟倉村。
そこに入り組んだ仕掛けや秘密があるわけではなく、
根本には人との出会いを繰り返すという、
思った以上にシンプルで本質的なことがあった。
真鶴でも充分に参考になるし、これまでもやってきたことかもしれない。

井上達哉さんを挟んで、真鶴テックラボを企画するジェフ・ギャリッシュさん(左)と柴山高幸さん(右)。「山の神」と呼ばれ、漁師たちに大切にされているお林の守り神の前で。

真鶴テックラボを企画する柴山高幸さんも、
「すごく共感した」と言って、最後にこうまとめた。
「僕も含めた〈スットコドッコイ〉が主催している
〈真鶴なぶら市〉でも、“楽しくやること”がモットーです。
だからまずは自分自身が楽しんでいきましょう!」

何かアクションを起こしたいと思っている参加者にとっても、
背中を押されるようなワークショップになった。

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