colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

真鶴の潮風を受け
オーガニックで果樹を育てる
〈オレンジフローラルファーム〉

真鶴半島イトナミ美術館
作品No.20

posted:2017.3.3   from:神奈川県足柄下郡真鶴町  genre:旅行 / アート・デザイン・建築

sponsored by 真鶴町

〈 この連載・企画は… 〉  神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。

writer profile

Shun Kawaguchi

川口瞬

かわぐち・しゅん●1987年山口県生まれ。大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。2015年より真鶴町に移住、「泊まれる出版社」〈真鶴出版〉を立ち上げ出版を担当。地域の情報を発信する発行物を手がけたり、お試し暮らしができる〈くらしかる真鶴〉の運営にも携わる。

photographer profile

Kenji Nakata

中田健司

なかた・けんじ●1983年愛知県生まれ。大学卒業後、2012年より平野太呂氏に師事。2015年よりフリーランスのフォトグラファーとして雑誌、WEBなどを中心に活動中。
http://nakata-kenji.com

自然と共存しながら、クリエイティブなことをする

神奈川県真鶴半島の先端、「お林」と呼ばれる森の少し手前にある入り口から
ゆるやかな坂を下りると、眼下に相模湾を望むウッドデッキテラスが見えてくる。
テラスを中心に、海からの風と太陽の光をたっぷり浴びた柑橘がたくさん植えられ、
果実や葉がやわらかい春の光に輝いている。

ここ〈オレンジフローラルファーム〉は、真鶴に移住して13年目の
佐宗喜久子さんたちの会社が運営する果樹園。
スローフード発祥の地、イタリアの“自然と人と食”の考え方に賛同し、
2002年からイタリアスローフード協会の国際会員に登録しており、
ナチュラル&オーガニックにこだわった、 皮まで食べられる安心なものを提供している。

ウッドデッキテラスにはテーブルなどが用意され、BBQなどに利用できる。 坂を下りたところにもレモン畑がある。

レモン、ライム、みかん、ダイダイ、プラム、ブルーベリーなどが実り、
11月にはさまざまな花が咲くオレンジフローラルファーム。
農薬を使わずに自然の恵みを生かし、海からの風が吹き抜ける畑は
お林からの落ち葉と適度な塩分で、良い腐葉土ができる。

ここでは果樹園でできた柑橘を限定で通信販売するほか、
レモン狩りや農業体験などの各種プログラムも行っている。
「来園者に丁寧に対応したいので、予約制にして
一度に対応する人数の上限を決めています」と佐宗さん。

果樹を丁寧に育て、来園者にも丁寧に接してくれる佐宗喜久子さん。11月中旬から12月はみかんの収穫期。(写真提供:オレンジフローラルファーム)

実は佐宗さんは、果樹園を運営しながら、
海外企業のコンサルティングなども行っている。
そしてこの環境が、それらのビジネスにもいい影響を与えているという。

「自然と向き合っていると、謙虚になるんです。自然と共存することで、
心が広くなって、ビジネスの現場でも広い視野を持てるようになった気がします。
多忙な日々のなか、こういった環境ではものすごくリラックスして
クリエイティブなことにも専念できます。
都会にいるときよりももっといい仕事ができるようになっている、
それはたしかですね。心と体のバランスが、真鶴に来てとれ始めたんです」

一見関係のなさそうな果樹園の運営と海外とのビジネス。
しかし、佐宗さんは真鶴という環境にいることを生かし、
楽しみながらビジネスに取り組んでいるようだ。

葉裏にいいレモンがあることが多い。5月には柑橘の花が咲き、近隣にも爽やかなシトラスの香りが漂う。「レモン狩りを始めた当時は、オレンジフローラルが日本で初めてだったと思います」と佐宗さん。

実を枝から切ったあとは、ほかの実を傷つけないようにもう一度ヘタを切る。とれたてのヘタからはレモンの芳香が。

次のページ
佐宗さんが考える「本当の豊かさ」

Page 2

『美の基準』が結んだ真鶴との縁

東京生まれ、東京育ちの佐宗さん。
真鶴に来たのは、子どもたちが独立したのを機に、
「海の近くに住む」ことを実現させるためだった。
沖縄、小笠原諸島、葉山、鎌倉、千葉……。
10年以上いろいろと移住先を探し、気に入ったのが真鶴だった。

きっかけになったのは、1993年に制定された、
おそらく日本初となる創造的なまちづくりのルール『美の基準』。

「“終の住処”の地として、大きく環境が変わらないところがいいなと思って。
それに真鶴は、森の魅力と海の魅力の両方を持っていて、
コンパクトなところもいいですね」

移住と同時に「家族に安心なレモンを使いたかったから」1本のレモンの木を植え、
徐々に増やしていき、いまでは60本ものレモンの木があるという。
農薬も除草剤も一切使わない。言うのはたやすいが、
無農薬栽培をすることは並大抵のことではないという。

「枯れたり、虫にやられたり、日々苦労の連続です。
自分や家族が安心して食べることができるので、お客様にも販売することができます。
皮まで赤ちゃんに食べさせても大丈夫なのものをつくろうと思っているんです」

レモンは皮に香りの成分があるので、皮まで安心して使えるのはうれしい。

皮をそのまま使って2年半発酵させた「レモン塩」をペースト状にしたもの。肉料理にも魚料理にもなんでも合う調味料になる。こうしたレシピも、訪れた人に伝えている。(写真提供:オレンジフローラルファーム)

移住者でもある佐宗さんは当初から、真鶴で行われていたまちづくりの勉強会や、
ボランティア活動などに積極的に参加していたという。

「地元の方と一緒に、『美の基準』やまちの景観について考える勉強会に
月に2回ぐらい参加していたんです。すごくおもしろかったですね。
この地に暮らしている人がどういう生活をしていらしたかとか、
その環境など、そこでいろんなことを教えていただいたんです。
いまではその団体はほとんど活動していないのですが、
女性たちが中心になって年に1回、盛夏の貴船まつりのときに
来てくださった観光客の方々に、冷たいお茶でもてなすボランティアは続けています」

真鶴で気づいた「本当の豊かさ」

佐宗さんが真鶴に来て気づいたことがある。それが、「本当の豊かさ」だ。

「都会の尺度の豊かさと、本当の人間の豊かさの違いに気づいたんです。
都会にいるとなんでもお金を出せば買えてしまうでしょう? 
真鶴で食に関して言えば、自分の食べたいものをすぐには食べられないかもしれない。
でもそれよりも、自分でクリエイティブなことをして、
自分自身で食べたいものをつくる作業にエネルギーを使うほうが、
どんなに幸せか、どんなに豊かなのかと気づいたんです。
すごく忙しいときでも、今日の晩ごはんは何にしようと考えながら園内をめぐって、
小さな明日葉の芽を見つければ、これでレモンと、ブルーチーズ、
そしてうちの夏みかんと合わせてサラダにしてみようとか。
こういうことで仕事のストレスも解消できちゃう。
その豊かさは、決してお金で買えるものじゃないんです」

最近では、新しく移住してきた人や、移住を検討している人が果樹園に来ることもある。
移住後の生活はどうなのか、どこで買い物をしたらいいのかなど、
先輩移住者としての相談相手となっているようだ。

「旅の楽しみのひとつは地域の人々の生活に触れること。
真鶴に来た人に、ただ『あぁ、海が見えてきれいね』
『レモン狩りができて楽しいね』だけじゃなくて、
畑で過ごすゆったりとした時間を楽しんでいただいています。
”Life in Sea Breeze”という真鶴の私たちのライフスタイルが
お客様には垣間見えるようです。
ときにはホットレモンを飲みながらお話することもあります。
『真鶴ってこんなに豊かなんですよ』というのを知ってもらうことは、
私にとってもとても楽しい時間だし、幸せな時間なんです」

とれたてのレモンにお湯をそそぐと香りが広がり、それだけでおいしい。

無農薬で育てるレモンは、いまでは抵抗力がつき、虫にも強くなってきた。
「まだまだこれからも冒険、発見していきたい」と語る佐宗さんも、
明るくポジティブなエネルギーに満ち溢れていた。

information

map

オレンジフローラルファーム

住所:神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1147-4

TEL:0465-69-2239

http://www.orangefloral-farm.com/

真鶴半島イトナミ美術館

Feature  特集記事&おすすめ記事