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連載

〈青貫水産〉
干物もロゴも手づくり。
絶品塩辛が人気の真鶴の名物店

真鶴半島イトナミ美術館
作品No.011

posted:2017.1.25  from:神奈川県足柄下郡真鶴町  genre:食・グルメ / アート・デザイン・建築

sponsored by 真鶴町

〈 この連載・企画は… 〉  神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

MOTOKO

「地域と写真」をテーマに、滋賀県、長崎県、香川県小豆島町など、日本各地での写真におけるまちづくりの活動を行う。フォトグラファーという職業を超え、真鶴半島イトナミ美術館のキュレーターとして町の魅力を発掘していく役割も担う。

神奈川の南西部、真鶴は魚のまち。
戦後は「ブリバブル」と呼ばれるほど、ブリで財を成した。
その後も豊富な魚を干物にして、観光バスが来たり、
多くの観光客が干物を買っていった。
その頃はたくさんの干物屋さんが軒を連ねていたが、
現在、真鶴で自家製造販売している干物屋さんは、
青貫水産高橋水産魚伝の3軒を残すのみ。
どこも小規模ながら毎日丁寧に魚を開き、干している。
今回は〈青貫水産〉のお話。

いつも人で賑わっている干物屋さん

お店にお邪魔するとたくさんのお客さん。みんなひと言会話をして買って行く。
それどころか店舗奥の作業場に足を踏み入れる常連さんも多数。
取材で店内にいる間、ひっきりなしに顔見知りのお客さんが訪れてきた。
そのたびに、店主の青木孝光さんは、
「最近どうよ?」「みかん食べなよ」などと声をかけていく。

〈青貫水産〉は地元に愛されている干物屋さんのようだ。
店舗にいた短い時間でもそれを充分に感じることができた。

青木さんは3代目にあたる。
小田原で生まれ、大学を卒業後、東京のデパートで
4年ほど衣料関係の仕事に従事していた。
青貫水産は、大学時代に知りあった現在の奥さんのご実家。
青木さんは婿となって、跡を継ぐことにした。

「跡継ぎがいなくてつぶれるっていうから、オレが来たんだよ! 
妻がひとり娘で、オレは6人兄弟の3番目だから。救世主だね」
と自分の顔を指差して豪快に笑う。

長年、魚を開いてきたことを物語る指を見せてくれた青木孝光さん。

当時の真鶴は観光で賑わっており、干物屋さんもたくさんあって、よく売れた。
従業員もいたので、まったくの未経験だった青木さんも、
お義父さんや従業員たちと一緒に働きながら自然と仕事を覚えていったという。

「実はオレも小田原の浜町という海沿いのまち出身で、周りは魚関係ばかり。
親父が板前で、おじいさんは魚屋だったんだよ。みんな職人。
気がつけば魚に馴染みがあったんだねぇ。
むしろ自分にとっては東京のほうが違和感があった。
仕事するにはいいけど、住みくいと感じた。やっぱり海が見えるまちがいいね」

新鮮なイカとカマス。

地元に根づいて、常連を大切に

こうして、晴れて海に戻ってきた青木さん。
しかし真鶴の観光業は徐々に衰退し、いまでは干物屋も数えるほどになってしまった。

「大型観光バスなどを相手にしていた大きなところがつぶれてしまったね。
うちみたいな家族経営でぼちぼちやっているところが残った」

かつては路面店や観光バスの呼び込みが必要だった。
しかしそのやり方ではリピーターがつかないから、
その客層がいなくなったときに何も残らない。

「うちは地元を大切にしてリピーターを増やしてきた。
いまは流通も発達しているし、きちんとおいしいものをつくっていれば
やっていけると思う。それが基本。こんな小さい店でも、
全国から注文はくるよ。世界中どこでも通用するんじゃない?」

青貫水産の干物は、防腐剤など使用していない。
だからおのずと持ち帰れる人たちがターゲットだった。
青木さんの代でつくり始めた商品もある。〈いか塩辛〉だ。
いまでは青貫水産の人気商品ともなっている。

「イカがとれると、ちょうどいいサイズのものは干物にしてよく売れるんだけど、
大きいイカや小さいイカは、安く売らないといけない。
それだったら、最初から塩辛にしてみようかなと。
小田原出身だから昔からイカの塩辛が好きだったんだ。
ほとんど自己流だね。最初はおばあちゃんの塩辛を思い出しながら
つくっていたんだけど、そのレシピだと、現代では塩分が多く過ぎてしまう。
健康に良くないから、ちょっとずつ味はアレンジしてるよ」

名物〈いか塩辛〉。ちょっとずつ混ぜながらいただく。

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アート好きな干物屋さん!?

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自ら版画で手がけたロゴデザイン

カウンターの奥に、フランスの著名な画家、
ニキ・ド・サンファルのポスターが飾ってある。
正直言って、干物屋には似つかわしくない。
しかも偶然か狙いか、青貫水産のテーマカラーである紺色で揃っている。

「紺色が好き。日本の色だよね。うちのアイデンティティカラーだよ。
青木という名前からとったわけではないんだ(笑)」

スタッフのジャケットやキャップの色も紺色だ。
さりげなく色を統一するあたり、デザイン心がある。

ニキ・ド・サンファルのポスターが貼ってある干物屋なんてほかにあるだろうか?

同じく紺色でまとめられた包装紙やのれんに使われているイカやアジの絵、
そして文字も青木さん自ら版画でデザインしたもの。
どうやらかなりのアート・デザイン好きだ。

「高校時代の先生が彫刻家でした。その先生がのちに小田原で
〈きつつき会〉という版画の工房を立ち上げたんだ。
そこでオレも行ってみようと真鶴から通ってみた。
その流れで先生からのアドバイスもあって、魚やイカを彫ってみたんだよね。
せっかくだからそれをポスターにしたり、包装紙にして。ヘタウマを狙ったね(笑)」

青木さんの版画による包装紙。のれんにも、この文字と絵が刷られている。

手で彫った版画だから、なんとも味わい深い雰囲気。
本人は「ヘタウマ」なんんて言うが、かなりデザイン性が高いように思える。
最近はあまり新作はつくっていないようだが、
展覧会巡りでの「アート充電」は欠かさない。

「3か月に1回、都内の病院に行くんだけど、
そのときに、東京で映画を観たり、展覧会を観たりして、1日遊んでくるんだ。
この前は〈すみだ北斎美術館〉に葛飾北斎の浮世絵を観に行ったよ。やっぱり天才だね」

近くには独立美術協会による〈独立展〉の審査員をやっていた人が住んでいたり、
まちなかのお店にはさまざまな画家や作家の作品が残っていたりする。
最近では近くに大物音楽家が別荘をつくったという。

そうこうしているうちに、近くでギャラリーを営んでいるという
ジョンさんがお店にやってきた。みんな青貫水産のお客さん。
なんだか文化の香りがする。

紺色のユニフォームで決めた青木さん。

青木さんの人柄を慕って、たくさんの常連さんで溢れる。
地元の農家もアーティストもサラリーマンも。そして観光客も。

1枚のハガキを見せてくれた。
「この前バイクで干物を買いに来たという人と友だちになったんだけど、
某高級アパレルブランドで働いている人で、その人からパーティの招待状が来たんだ。
“イブニングスタイルでお越しください”なんて書いてあるよ! 
残念ながら行けないけど、ホントに招待状が届くだけでおもしろいじゃんね」

どんな人の懐にもスッと入っていける青木さん。
今日もまた、分け隔てなく声をかける。

真鶴に移住してきた若者〈真鶴出版〉がつくった本『やさしいひもの』も店頭に置いてあった。真鶴の干物店で使える「ひもの引換券」もついている。

information

map

青貫水産

住所:神奈川県足柄下郡真鶴町岩34-6

TEL:0465-68-0057

http://www.manazuru.net/aokan/

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