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連載

〈鉄工島FES〉開催!
鉄工のまち、大田区「京浜島」で
いま何が起きている?

ローカルアートレポート
vol.077

posted:2017.9.20  from:東京都大田区  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

text&photograph

Kiyoko Hayashi

林貴代子

はやし・きよこ●宮崎県出身。旅・食・酒の分野を得意とするライター・イラストレーター。旅行会社でwebディレクターを担当後、フリーランスに転身。お酒好きが高じて、唎酒師の資格を取得。最近は野草・薬草にも興味あり。

東京の小さな人工島「京浜島」

東京にしばらく住むと、ある程度の地理感が身についてくるものだ。
TVや雑誌でまちの雰囲気を知ったり、こんなお店があるんだ、と足を運んでみたり。

そんなふうに、いつの間にか慣れっこになってしまう東京にも、
名前を聞いても、どんなまちなのかイメージしにくい場所がある。
大田区の湾岸エリアにある「京浜島」は、まさにそれだ。

そんな京浜島が、注目を集めつつある。
昨年、シェアアトリエと作品展示スペースを併設したアートファクトリー
〈BUCKLE KÔBÔ(バックルコーボー)〉がオープンし、
今年の秋には、芸術・音楽・映画・キャンプなどのジャンルを融合させた
アートの祭典〈鉄工島FES〉が開催される。

なにやらおもしろくなりそうなエリアだが、そもそも京浜島ってどんな場所? 
いったい何があるのだろう? 
知られざる東京の小島に、一歩足を踏み入れてみた。

image by Tohru Matsushita

京浜島にオープンしたアートファクトリー〈BUCKLE KÔBÔ〉とは?

羽田空港の隣に位置する、面積1.03平方キロメートルの人工島、京浜島。
戦後、近代化を目指した企業が移転し、鉄工を中心に工業団地として栄えた島だ。
しかし、機械化と低コスト化が進み、昔ながらの職人の手を必要としなくなったいま、
大田区内ではこの30年で約40%の鉄工所が衰退。
島のいくつかの工場跡地も、廃棄物処理場や
リサイクルセンターに変わりつつあるという。

そんな京浜島に、BUCKLE KÔBÔが参入したのは2016年。
ここの運営を担い、鉄工島FESの実行委員でもある、
〈寺田倉庫〉の伊藤悠さんに話を聞いてみた。

BUCKLE KÔBÔの2階ギャラリー。これまでに多くの作品展示やアートイベントを実施。

「京浜島って、大型の工場が多いんです。
でも空きスペースになったとき、その大きさゆえに使える会社がなくて、
ごみ処理場やリサイクルセンターになっていくそうなんです。
ものづくりの島が、かつてつくったものを処理する島になっていく現状を知ったとき、
リサイクルの価値の転換とか、空きスペースをおもしろく使えるアイデアとか、
発想の転換みたいなことをしてみたくって」

もともと寺田倉庫が見つけた、2階建ての〈須田鉄工所〉の空きスペースを
アートファクトリーにする案が立ち上がり、クラウドファンディングを開始。
クリエイターやミュージシャンなどを含む、83人のメンバーが賛同し、
目標金額を大きく上回ってスタートしたという。

BUCKLE KÔBÔで開催した「GROUP EXHIBITION『SCENERY』」の展示風景。

BUCKLE KÔBÔの1階は、ひとつの大きな空間を
アーティスト同士で譲り合って使うシェアアトリエ、
2階は、作品展示・イベントスペースや、BUCKLE KÔBÔ事務所になっている。

シェアアトリエで制作した大型作品。アトリエには壁がない分、都内ではなかなか実現が難しい大きな作品の制作が可能だ。(Akira Fujimoto “2021” 3600×10000mm wood 2016)

工業専用地域である京浜島は、音や火を出すことへの規制が比較的ゆるいエリア。
そういった地域的メリットもBUCKLE KÔBÔの魅力のひとつ。
さらに1階の隣のスペースには、現役の旋盤工職人が火花を飛ばしながら、
半導体部品などの製造に精を出している。

現在、シェアアトリエで大型作品の制作に取り組むアーティスト根本敬。その隣の工場では、旋盤工の職人が半導体部品をつくっている。

BUCKLE KÔBÔオープン後、京浜島で働く人にも、おもしろい波及が。

「ここで制作した作家の作品が上野の美術館に展示されたとき、
わざわざ上野まで作品を観に行ってくれた方もいて。
あと、アーティストの壊れた自転車を、鉄工組合の方が
あっという間に直してくれたこともあったみたいです(笑)」

アーティストも、鉄工所の人も、同じものづくりをする人同士。
それぞれに影響し合うものがあるのかもしれない。
京浜島に関わる人のあいだで、ほんの少しの変化が起こりつつあるようだ。

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新しいフェス〈鉄工島FES〉とは?

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フェスのプロじゃないからこそできる
自由なアイデアが詰まった〈鉄工島FES〉

2017年9月30日(土)、10月1日(日)の2日間で開催される鉄工島FES。詳しい内容はこちらでチェックを。

フェス開催に至った経緯をうかがうと、BUCKLE KÔBÔ立ち上げ時の
クラウドファンディングでの出来事が大きかったと伊藤さんは話す。

「クラウドファンディングに参加された人の中に
『ここでライブをしたい』、
『ここを撮影に使わせてほしい』って言ってくださる人がいて。
アートファクトリーとして始めたBUCKLE KÔBÔだけれど、
そんな声を発端に、実際にライブをやってみたり、イベントをやってみたり。
私たちの予想を超える出来事がたくさん生まれて、
可能性がいろいろなジャンルに広がっていったんです。
今回の鉄工島FESは、そういう出来事を発展させたものに近いといえます」

ライブステージには、石野卓球、七尾旅人、社長(SOIL&“PIMP”SESSIONS)などの豪華ミュージシャンが登場。パブロ・ピカソの名作『ゲルニカ』と同サイズで根本敬が描く大型作品は10月1日に初御披露目。このプロジェクトには画材アドバイザーとして、アーティスト会田誠が参加しているという。

防災施設や、レスキュー隊の訓練場でもある京浜島で、大規模な都市災害をサバイブするための〈防災ブートキャンプ〉。スノーピーク社をまじえ、防災公園にテントを設営し、一夜を過ごす防災シミュレーションを実施予定。詳細はこちら。(写真提供:スノーピーク)

今年の8月には、フェスへの参加希望アーティストや、
運営スタッフを募集するためのオープンミーティングを開き、
後日、参加希望者を連れて、京浜島下見ツアーを行ったという。
既存のフェスやアートイベントとは、趣向も発想も取り組み方も違うものになりそうだ。

「私たちはフェスのプロではないので、
ほかのフェスとは違うやり方でもいいのかな、って思ったんです。
もちろん、タイムテーブルで細かく割り振りすれば運営しやすいけれど、
不確定要素というか、自由なものがあったほうがおもしろいってことを
BUCKLE KÔBÔのクラウドファンディングで経験してきたというのもあって」

8月に開催された、鉄工島FESオープンミーティングの様子。

著名なミュージシャンのライブだけなら、どこでもできるけれど、
現役の鉄工所内にステージを設営し、
巨大アート作品と音楽をコラボレーションさせるなど、
京浜島のココでしかできないものを大切にしたい、と話す伊藤さん。

そんな鉄工島FESのプログラムの中で、個人的に意表を突かれた企画が、
大田区・品川区・港区の3区を横断するプロジェクト。
港区と大田区間を結ぶ東京モノレールの駅構内での写真展示、
アーティストの遠藤一郎が手がけた船『未来へ丸』や、
改造アートカー『CARt』で3区間を行き来するパレードを予定しているそうだ。

道路交通法に則った改造アートカー『CARt』が隊列を組みながら走行し、出発点と終着点を結ぶ線(公道)をアート化する作品を展開予定。

勝手なイメージだが、区同士は、ライバル同士。
折り合いをつけるのは難しそう……。

「最初に、京浜島が属する大田区の観光協会に相談に行ったんです。
そしたら大田区の元事務局長が品川区の担当者を紹介してくださり、
京浜島で開催するならモノレールも必要だ、と港区にも発展して。
きっと、自分たちの利益という観点から離れたところで、
おもしろいことがしたい、いろんな人が楽しんでくれることをしてみたい、
そういう各区の担当者の気持ちが、区をまたいでの連携を
可能にしたんじゃないかと思っています。
それにはやっぱり工夫が必要だなと思い、区の境界線を
船、車、モノレールのアートで緩やかにつなぐアイデアを提案しました」

アートの前に立ったとき、人と人が対等になり、個人としてどうするかを考える。
これがアートの力だと感じた、と伊藤さんは言う。
エリアという垣根は、アートの前には崩れやすいものなのかもしれない。

「BUCKLE KÔBÔの大家である須田鉄工所は、
京浜島に一番最初に入植した会社だそうです。
『同じものづくりをするという意味では、俺らと一緒じゃないか』って
須田所長はいつも協力的で、鉄工島FES実行委員会の代表にも就任してくださいました。
そんな須田鉄工所の表玄関で今回のフェスが開催できることがうれしくて、
なんだか運命のような気もしているんです」

鉄工島FESのメンバー。中央女性が伊藤悠さん。鉄工島FESは、現在クラウドファンディングでの支援を募集中。新しいフェスづくりへ興味のある方は、ぜひ参加してみては? 詳しい内容はこちらから。(Photo by Tsuyoshi Sato[The Room Shibuya])

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湾岸エリアをつなぐハブに

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人が来れば来るほど、可能性が広がる場所

BUCKLE KÔBÔの運営や、鉄工島FESを開催するにあたり、
これまでに何度も京浜島に人を連れてきた伊藤さんは、
この場所のさらなる可能性を感じたという。

「例えば、レコード会社や、スピーカー会社の人などを案内すると
『こういう場所を探していた!』って言ってくださるんです。
都内では音を出すことへの規制が厳しくなっているそうなんですが、
ここなら、スピーカーを置きながらイベントをしたり、
同時に事務所にもできるよね、って。
人を連れてくればくるほど、この場所の可能性が
どんどん広がっていくような気がします」

空き工場の活用方法が、大田区の中でも課題になっているという。
しかし特殊なエリアのため、外の人間は島の情報に触れる機会がなかなかない。
そんな問題を、これから伊藤さんたちがひとつひとつヒアリングしていき、
この場所を必要としている人に紹介していければ、と考えているそうだ。

image by Tohru Matsushita

「BUCKLE KÔBÔの名前の由来は、
湾岸エリアをひとつのベルトに見立てたときのバックル、
つまり、つなぎ手になる場所でありたいという思いで名づけたんです。
京浜島のここをハブにして、湾岸エリア一帯が
もっとクリエイティブなスポットになることを目指しています。
そのはじめの一歩としてやり始めた私たちのアクションは、
まだまだ本当にひとつの点。これを線にして、面にしていきたいと思っていて」

すぐに答えが出るものばかりじゃないから、小さな規模でも、まずは試しにやってみる。
そういうことを少しずつ積み重ねていきたいと語る伊藤さんの頭の中には
すでにいろんなアイデアがいっぱいだ。

いまはまだ、京浜島と聞いてもイメージし難いエリアだが、
数年後、「あの、アートの島ね」と、
たやすく頭に思い描けるエリアになっているかもしれない。
そして、10年後、100年後。
未来の京浜島がどんな姿をしているか、想像してみるのもおもしろい。

information

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BUCKLE KÔBÔ 

住所:東京都大田区京浜島2-11-7

TEL:070-6585-8960

https://buckle-kobo.tokyo/ja/

information

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鉄工島FES

開催日:2017年9月30日(土)、10月1日(日)

会場:BUCKLE KÔBÔ(東京都大田区京浜島2-11-7)

http://tekkojima.com/

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