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連載

小山薫堂さん(放送作家)
× 北村恵子さん
(BEAMS fennicaディレクター)
手仕事を未来につなぐには。

セキスイハイム × colocal
ニッポンの手のわざ
vol.003

posted:2015.8.24   from:全国  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  セキスイハイムが掲げる「時を経ても、続く価値を。」をテーマに、
小山薫堂さん企画・監修のTV番組『セキスイハイム presents アーツ&クラフツ商会』(BS朝日)が生まれました。
日本の伝統工芸を紹介しながら、現代の暮らしを豊かにするニュー・クラフツを提案するこの番組とともに、
日本の各地域の産業や文化を育んできた伝統工芸の知恵や技術、情熱をレポートします。

セキスイハイム
「時を経ても、
続く価値を。」とは?

住み始めてから、どれだけ永く、住まいの価値を維持できるか。十数年後、年を経たあとに、資産としての価値が高くあるのか。
セキスイハイムが、1970年の日本初のユニット住宅の発売以来、もっとも大切に考え続けている家づくりへの想いです。地球環境にやさしく、60年以上安心して快適に住み続けることのできる住まいへ。

writer profile

Satoko Nakano
仲野聡子

なかの・さとこ●ライター。生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。帰省するたびに色が変わっている地元で、まち歩きをしながら新しい発見をするのが最近のブーム。反面、古いモノや場所も消えないでいてほしいと切に願う。

credit

photo:山崎智世

BS朝日で放送中の『アーツ&クラフツ商会』(提供:セキスイハイム)の監修を務める、
小山薫堂さんと、〈BEAMS fennica〉(以下fennica)のディレクターとして、
日本の伝統工芸の職人とコラボレートした商品づくりを行ったり、
世界各国のクラフトをバイイングしたりしている北村恵子さん。
日本の手仕事にフォーカスするという共通項を持ちながら、
違うアプローチでそのよさを多くの人に伝えているおふたりが、
今回、初めて顔を合わせました。

放送作家としてさまざまな番組を手がけてきた小山さんが、
伝統工芸のものづくりを番組テーマにした理由とは?
そして北村さんはどのようにして、
愛される別注の工芸品を生み出しているのでしょうか。

多くの人に、手仕事のよさを知ってもらうために

小山: 僕はいままで、いろいろな職業にスポットを当てたTV番組をつくってきました。
古くは料理人にスポットを当てた『料理の鉄人』、
そのあと美容師にスポットを当てた『シザーズリーグ』。
『ニューデザインパラダイス』という番組ではデザイナー、
『おくりびと』という映画では納棺師……。
メディアって、世の中にスポットライトを当てる仕事だと思うんです。
それで「次は、何にスポットを当てようか」と考えたんですね。
いまは日本の手仕事や伝統工芸に注目が集まっていますし、
僕もそれらが人々の関心を呼ぶといいなという思いがあった。
それで生まれたのが『アーツ&クラフツ商会』(提供:セキスイハイム)という番組です。

なぜテレビがいいかというと、どれくらい大変な思いでこのクラフトが生まれたのか、
といった、その背景にある物語を伝えやすいから。
そうすれば、見た人が職人さんやクラフトに感情移入できます。
いままで何気なく見ていたものでも、背景を知ることによって、より魅力的に映る。
それが“素敵”という気持ちや“好きだ”という思いを生み出す、
すべての元になると僕は考えているんです。
番組ではさらに、伝統的な技術をいまにマッチさせるために〈ニュー・クラフツ〉といって、
新しいプロダクトを生み出しています。

北村: なるほど、そうなんですね。

小山: それでちょうど番組を企画しているときに、
僕が教鞭をとっている東北芸術工科大学に訪ねていらっしゃった仙台市の方が、
お土産で〈インディゴこけし〉をくださったんですよ。
「これいいですねえ」って言うと「BEAMSさんがつくられているんですよ」とおっしゃって、
「なるほど、こういうものがあったか」と。
これを、北村さんが企画されていたんですよね?

遠刈田系こけしをはじめとした木地挽物を手がける、仙台木地製作所が制作したインディゴこけし。日本独特の染料である“藍”を使ったもの。仙台、宮城の手仕事を伝えるwebサイト『手とてとテ』でも紹介されている。

北村: ええ。きっかけは、私のパートナーで、
一緒にfennicaのディレクターを務めているエリス(テリー・エリス氏)なんです。
縁あって、仙台市との伝統工芸のプロジェクトに参加させていただくことになったんですが、
準備期間が決まっていて、7か月ととても短かったんですね。
そこで、仙台、宮城県内の伝統工芸の中から、
まずは自分たちの興味のあるもの、好きなものを選ぼうということで、
染物、こけし、和紙、焼き物の4つにカテゴリを絞り込みました。
とりあえず、それらがつくられている現場を見せていただきたいと思って工房を訪ね、
そこからひとつひとつ、職人さんと相談しながらつくっていったのです。

なぜ青いこけしが生まれたかというと、エリスが日本の藍染めが大好きだったから。
そこで、こけし職人である佐藤康広さんに
何気なく「青いこけしってないんですか?」と聞いたら
「そういえばないですね」という返事が返ってきて。
「日本にこれだけ藍があったのに、どうして青いこけしができなかったんでしょうね」
という話から「ちょっと試してみていただけますか?」という流れになったんです。

その場に黄色と紫の染料はあったので、混ぜて何種類か青をつくり、
試作の絵付けをしていただきました。それが、とても素敵だったんです。
佐藤さんも「案外いいじゃないですか」とおっしゃって。
本藍は紫外線に弱いので退色して白くなってしまうのですが、
「そういうビンテージ感もいいかもしれないから、
経年変化を楽しむような感じで本藍も試してみていただけますか?」
というところからこれが完成しました。

小山: そうだったんですね。いま思えばこのこけしも、
僕が番組をつくるときのひとつのヒントになっていたかもしれないです。

こちらも仙台市のプロジェクトのひとつ。佐藤紙子工房の丈夫な白石和紙でつくられたiPadケース。江戸から続く伝統の型を使いながら、現代の感覚に合うよう色は新しくつくっていただいたものもあるそう。

北村: 私たちが大切にしているのは、職人さんとのコミュニケーション。
だからいきなり何かお願いするということはほとんどなくて、
お付き合いしていって「ちょっと私たちのことを信頼していただけたかな」
というタイミングから始めることがほとんどです。

あとは、今までその職人さんや師匠がつくってきたものを、必ず遡って見るようにしています。
案外、忘れられてしまっているものや「そういえばしばらく、これつくってないね」
というものの中に、いま提案したらすごくいいんじゃないかなというものが結構あるんですよ。
そうすると職人さん側も、今までつくっていたものと丸っきり違うものではないので、
制作に入りやすいですよね。
そこからいろいろなかたちに進化させたり、発展したりということが多いです。

北村さんからは職人さんひとりひとりの技術や思いが次から次へとあふれ出てくる。

編集部: 同じ伝統工芸でも、時代によって違う部分はありますか。

北村: 普段使いするものに関しては、
60~70年前にデザインされたものがいま使えるかというと、
やっぱり生活様式が違いますから、同じものでも少しずつ変わってはきています。
でも、それはそれで自然なことですよね。
時代を振り返ってみて「いまだからあえてこっちをやってみる」
というタイミングもあるかもしれませんし、
つくり手さんのほうでいまの時代に合わせようと悩んでできる作品もあるんです。

その作品からちょっと何かを引き算するだけで、すごくすっきりする場合もあるんですよね。
私たちはデザイナーではないので新しいものをデザインするということはできませんが、
そういう提案をすることはあります。

小山: 僕らは番組として毎回新しいものをつくるというフォーマットがあるので、
いまの北村さんのお話と真逆かもしれない。
締め切りがあって、新しいクラフトを月にふたつずつ、つくるわけです。
でもものづくりがゴールではなく、
その仕事や歴史を紹介することが一番の本筋です。

ニュー・クラフツはつくりますが、売ることが前提ではなく、
職人さんたちに「こういうやり方もあるのか」と感じてもらったり、
刺激になったりすればいいなと思っているんです。
何らかのきっかけを番組がつくってあげられたら、最大の使命を果たせるのかな、と。
商品として売るためには
「販売価格はどうするんだろう」
「それに対する労働時間はどうなんだろう」
などと考えなければいけないので、何でもかんでも商品にできるわけではないですしね。
むしろ、そこが一番難しいだろうなと思いますね。

北村: つくったからには少しでも多くのお客さまに見ていただきたいし、
楽しんでいただきたいので、
私たちには“手のとどく価格帯の中で”という問題が必ずつきまといますね。
ちなみにこのこけしは3000円、小さいものだと2000円、1500円程度です。
焼き物も3000~4000円、大きいもので5000円くらいなんですよ。

小山: 手に取りやすい価格ですね。

北村: そうなんです。

小山: ……ところで、これはふんどしですか?

テーブルにあった商品を手にとる小山さん。

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コミュニケーションを重ね、生まれる新しい価値

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北村: これも仙台市のプロジェクトで、
アフリカの〈バティック〉生地みたいなイメージで
仙台市の名取屋染工場と手ぬぐいを発表させていただいたんです。
その後、「せっかくのご縁なので、なにかのかたちでつなげていけたら」
と考え、今回ふんどしに。
この柄は伝統的な〈常盤型(常盤紺型染)〉という木綿染めのスタイルです。

絣(かすり)っぽく見えるんですが、絣は日本の南や西のもので、北にはないんですね。
それで昔、北の人が絣に憧れて、染物で絣を再現したのが常盤型。
浴衣などにしていたという話を伺って、その伝統柄を復刻していただきました。
手ぬぐいは昔から赤ちゃんのおしめやふんどしにも使われていて、
面白いんじゃないかなと(笑)。

小山: 僕、こう見えて〈ベストふんどしスト〉をとったことがあるんですよ(笑)。

一同 : (爆笑)

北村: そういうものがあるんですか!

小山: 日本ふんどし協会からいただきました。

「ふんどしは、いただくことが多いですが(笑)、これも素敵ですね」と小山さん。

コミュニケーションを重ね、生まれる新しい価値

小山: 僕が番組で職人さんにつくっていただいた中で好きなクラフトのひとつが、
熊本県の伝統工芸〈肥後象嵌(ひごぞうがん)〉の押しピンです。
通常安い値段で買えるものを上質にしたほうが、
普段の暮らしの中にラグジュアリー感が出ますから。
よく使うものほど、安いものをいっぱい買いがちですよね。
だからどれだけ普段使いのものに愛着を持てるかによって、
暮らしが豊かになるかどうかが決まると思っていて。

肥後象嵌は、熊本城の城下で、江戸時代に武具を装飾するために生まれた、細やかな技術が駆使された工芸品。

北村: いまはなんでも安いもの、安いものとなってしまっている。
あんまり皆が買えない値段になってしまうとよくないけれど、
職人さんの仕事の価値に見合った価格が無視されがちだとすごく思いますね。
安すぎる、と思うものがたくさんある。

小山: 僕はずっと、小学校でお金の授業をしたいと思っているんです。
「お金とは拍手である」ということを、子どものころに教えられたらいいなって。
欲しいものと引き換えにお金を払うのではなく、
ものをいただく代わりの拍手としてお金を払う。

たとえば量販店と個人商店で売っているものが同じだったとしても、
個人商店のおばあちゃんから買うときに
「この大根はこうやって食べたらもっとおいしいんだよ」
「これはこういう人がつくったんだよ」などと教えてもらえることに対する感謝の意味で、
量販店より値段が高くても「おばあちゃんから買おう」と思うような人が増えると、
ちょっと世の中が変わってくるのかなと思いますね。

北村: 本当にそう思います。
お店に来てくださるお客さまは、やっぱりストーリーを欲しがっている。
またそういう話をできるのがお店の喜びでもあるし、
話を聞いてくださった上で買ってもらえる喜びもありますよね。
インターネットでの販売がかなりの部分を占めてきているいまだからこそ、
店頭ではその部分が大事になってきているなと感じます。

小山: 消費者や売り手の姿勢も、変わってくるといいですよね。
また職人さんたちと接していても、変わりたいと思っている方が多いなと感じます。
でもどうしていいかわからなくて、もがき苦しんでいる。

北村: 難しいですよ、本当に難しい。
でもうまくいくと職人さんたちも自信を持ってくれて、
どんどん提案も投げてくれるんですよ。
そうするともっといいものができるので、それがすごく楽しいです。

小山: 一方で「変わらなくていい」と思っていらっしゃる方もいて
番組的に時間が間に合わないこともあるので、
ある程度のところであきらめることもありますね。

北村: 私たちもあきらめることはしょっちゅうです。
最初の頃は全然信用されませんし、地方の職人さんたちの中には
BEAMSのことを知らない方も多いですから。
また私のパートナーも外国人なので「なんだ? あのふたり!
普段はロンドンにいるらしいけど、何をしに来たんだ?」って。
ある程度、通って、通って、通いつめて信頼関係を築くこともありますが、
最初からうまくコミュニケーションが取れる職人さんも結構いらっしゃって、
なかには20年近くお付き合いのある方もいらっしゃいます。

小山: 職人さんって、賞状によって褒められることが多いですよね。
僕も今まで“○○大臣賞”みたいな賞状が飾ってある工房を、たくさん見てきました。
でももしかしたら今まで、評価の基準がそれしかなかったのかもしれません。

もっとリアリティのある商品というかたちで発信されて、
それが売れて「これいいね」と使っている人の姿が目に見えたときに、
つくり手のほうもまた違う喜びを感じるのではないでしょうか。
その間をつなぐ役割を担っているという意味で、
僕たちも収録が終わった後に職人さんたちと距離が近くなることはよくあります。
きっとそういう、信頼関係が大事ですよね。

北村: インディゴこけしをつくってくださった、仙台木地製作所の佐藤康広さんは、
宮城伝統こけしの伝統工芸士として黄綬褒章を受賞されているお父さまの佐藤正廣さんと
ふたりでものづくりをされているんです。
インディゴこけしも最初はお父さまが離れたところから見ている感じだったのですが、
ものができていくにつれて、ちょっとずつ近くにいらっしゃって(笑)。
のちに、お父さまが昔つくられていた作品の復刻につながり、
今も人気商品になっています。

小山: それは面白いですね。

編集部: ちなみに、日本の伝統工芸品はヨーロッパではどう見えるんでしょうか?

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人の心をつかむための要素

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北村: まず一番の違いは、これだけの伝統工芸や工芸品、
民芸品がある国はどこにいってもないということ。
少なくとも、私は日本のほかに知らないです。
特にヨーロッパには、産業革命がありましたよね。
その時代に、効率優先になってしまっているんです。
それが悪いということではないのですが、
そこで頭の中が切り替わってしまっているから、手仕事には戻れない。
日本には、それがないんです。

絶えてしまったものもありますが、細々と今までつながってきている。
今、外国でもクラフトは以前より少し盛り返してはきているんです。
でも日常使いではなく観賞用だったり、特別なときに使ったりするもので、
作家性がとても強いんですね。
ふたつと同じものがないことと、つくり手のサインがしてあるもの、
というところを、ヨーロッパの人はまだ求めます。

だから、日本の工芸品が好きな外国の方が日本にいらっしゃると
「この値段で、全部手でつくっているんですか」とすごくびっくりされる。
デザインやファッションのお仕事をされている取引先の方は
fennicaに来ると、みんな焼き物やガラスを買っていきます。
ふんどし購入者の第1号は、3日前にお店に来たイギリス人のデザイナーだったんですよ。
「これは絶対、買わないわけにはいかないでしょう!」って(笑)。

小山: 日本国内でも、手間ひまをかけたクラフトが、
以前より求められるようになってきましたね。
日本が上り調子で成長期にあった頃は、まだまだ本当に裕福ではなかったので、
一見便利だったり、手間が省けたりするようなものばかりを追い求めていた。
いまは豊かになった分、
ぬくもりがある、手間のかかったものを求める時代になっているのかなと思います。

つくり手が、自発的に新しいものを生み出せるように

小山: 番組でどんなニュー・クラフツをつくるのかを決めるときは、
やはり自分が欲しいかどうかが基準になります。
これはもう誰かの個人的主観で決定しないと、
より平均的な意見を求めていくと、だんだんつまらなくなっていくと思うんですよね。
例えば放送10回目で、秋田県の〈曲げわっぱ〉を取り上げさせていただいたんですが、
ニュー・クラフツとして提案したのがこの日本酒バッグです。
僕は日本酒が好きなんですが、
日本酒を持っていくときに専用のキャリーバッグがないな、と思って、
これは曲げわっぱでつくってもらおうと。

また宮城県の〈鳴子こけし〉の回では、
例えば今のこのメールの時代に、恋人同士であえてこけしに手紙を入れてやりとりしたら、
ボロボロになったときにふたりの愛の軌跡みたいになって面白いなあと思って。
それで、鳴子こけしの第一人者である菅原和平さんに、
ちょっと今風のこけしをつくってもらったんです。

お弁当箱などで人気の秋田県大館市の工芸品〈曲げわっぱ〉。こちらは、中にふたつのおちょこがセットになっていて日本酒を持ち運び、楽しめるというものだ。

郵便屋さんの姿をしたこけしのなかは空洞になっていて手紙が入る仕様に。交換日記ならぬ“交換こけし”が生まれた。

北村: 「自分が欲しいもの」というのは、絶対に大事なキーワードですよね。
「売れるから」という考えだと、いいものは生まれてこないと思う。
私も「これは見たことないけど、お店に置いてみたいね」
「これをこうしたら使ってもらえるんじゃないかな」というところから始まります。
まず、本当に自分たちが使いたいかどうかです。

小山: そういう僕たちの働きがきっかけになって、
職人さんが何か新しいものに挑んでくれたらうれしいですね。
そうしなければ、手仕事もブームのように終わっていくかもしれませんから。

今はどちらかというと「一生懸命、伝統工芸を盛り上げなければ」
という社会的気運が高まっているじゃないですか。
それによって職人さんが自分たちの仕事に誇りを持ち、
やってきたことの未来への可能性を感じるのだと思うのですが、
ここで職人さんが自発的に新しいものをつくり上げることで、
その流れが永続的につながっていくのではないかと思うんです。

我々がハッとさせられるようなものが、次々とつくり手の方から生まれてきたり、
いつの間にか伝統工芸の産地同士がつながって新しいコラボレーションが始まったり。
ショップやメディアが一生懸命盛り上げようとしている現状が、
逆転していくと面白いなと思います。

北村: そういう意味でも、私は今やっていることを少しずつ、ゆっくりと発展させて、
未来につなげていきたい。爆発させるのではなくて、
ずっと長い間続けていけるものを、つくり手さんたちと考えていければいいなと思います。

人の心をつかむ要素

小山: 長い時間によって、生まれてくるものがストーリーですよね。
何でも100年以上続いていたら、文化や芸術になっていくと思うんですよ。
お茶だって400年間も続いているから、ひとつの作法があり、ひとつの道になっています。
だからすぐには結果が出ないかもしれないけど、
根気よく継続するというのは、人の心をつかむために必要な要素かなと思います。

小山: これは伝統工芸に限らないのですが、地域振興の仕事をしていると、
みんな同じことを言うんですよね。
「うちは本当にいいものをつくっているんですけど、発信の仕方が下手なんです」って。
おいしいものがあって、いい水があって、山と海があって……。
それはやはり、どうやってほかより一歩先を行くかということに、
それぞれ知恵を絞らないといけないと思いますし、
単独で成り立つようにするためには、物語が必要なんですよね。

今思ったのですが、北村さんと僕は同じようなことをしているように見えて、
実はアプローチが違いますね。
北村さんはつくり手側から消費者に近づける、
我々は番組をつくって買う人のリテラシーを高め、つくり手に近づけていく。

北村: そう、小山さんは番組を見て伝統工芸に興味を持った方たちが産地に行ったり、
つくっているほうのものが並んでいるところを探して行ったりという、
きっかけづくりをされている。それも本当に、大事なことだと思います。
そうすることで、技術が受け継がれたり、職人が評価されたり、
新たなクラフトが生まれていったりするといいですね。

対談終了後、おふたりは、
小山さん出身の熊本県天草市の手仕事のお話に花がさいていました。
放送作家、バイヤーとそれぞれの立場から新しい価値を紡いでいくふたりの姿勢には、
日本の伝統工芸を未来へつなげていくヒントがたくさんあったような気がします。
そして、次回の『アーツ&クラフツ商会』のテーマは〈蒔絵〉です。
蒔絵は、漆器に華やかな彩りを加える漆工芸のひとつです。
長い歴史のなかで変わらず継承されてきた細やかな職人技術。
ものづくりに込められたストーリーは、ぜひ番組で。
今回は、小山さんが蒔絵の技術にチャンレジしているようです。

information

「セキスイハイム presents アーツ&クラフツ商会」 

放送局:BS朝日
放送時間:毎週月曜日夜11:00〜11:30
出演:渡辺いっけい
企画・監修:小山薫堂(放送作家、脚本家)
提供:セキスイハイム
NO.22「蒔絵」
2015年9月7日(月)、21日(月)放送 

profile

Kundo Koyama 
小山薫堂

1964年6月23日 熊本県天草市生まれ。大学進学で上京。日本大学芸術学部放送学科に通う。学生時代にラジオ局でアルバイトを始め、大学在学中に「11PM」で放送作家デビュー。その後、伝説の深夜番組「カノッサの屈辱」でその名を世間に広め、「進め!電波少年」や「料理の鉄人」など、数多くのヒット番組の企画・構成に携わる。2009年、脚本を手掛けた映画『おくりびと』で米国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞。日本映画初の快挙を成し遂げる。エッセイ等の著作多数。執筆活動のほか、企画プロデュースやアドバイザーの仕事も数多く行っている。「くまモン」の生みの親でもある。BS朝日で放送中の『セキスイハイム presents アーツ&クラフツ商会』の企画・監修を担当している。

profile

Keiko Kitamura 
北村恵子

1986年よりテリー・エリスとともにBEAMSロンドンオフィスとして、バイイングを担当。Emilio Pucci、John Galliano、Helmut Lang、Goyardなどのブランドを、ファッションのトップトレンドをさらに越える審美眼で日本に初めて紹介したのはほかでもないこのふたりである。1995年に「BEAMS MODERN LIVING」をスタート。同ブランドでArtekやBruno Mathsson、Hans J. Wegner、Marimekkoなどの北欧家具を中心に、柳宗理の名品バタフライスツールなども展開し、現在の日本のインテリアブームの先駆けとなった。2003年からは“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマにしたレーベル「fennica」を開始。クラフト感溢れるウエアや、日本独自の手仕事によるアイテムなどを取り扱っている。2003年、スウェーデンの老舗ハイエンドインテリアショップSvenskt Tennにて、エキジビション『The Collector’s Room JAPANESE FOLK ART IN MODERN INTERIORS』を開催。

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